if story その手をもう離さない
ひで君が強引に行動したらどうなるでしょう?
話は、千葉の駅で泣きじゃくるところから始まります。
今回はひで君目線で送ります。
「とも…」
久しぶりに会った元恋人は俺が今まで見た中で一番泣いている。
こんなに泣いているのは…彼女が小学校2年以来かもしれない。
ただ、あの時と違っているのは…彼女が声を出さずに泣いている。
声を出せない程、辛いってことだけが見て取れた。
俺は、昔読んでいたように彼女を呼ぶ。
「うっ、ひっ、ひで君」
彼女は涙を拭いながら、俺を見た。
あいつが別れを告げてからずっと泣いていたんだろうと思う位に
顔色が悪い。入試前日に彼女に別れを告げる男に俺は呆れた。
でも…あいつは俺の親友だ。だから…余計に問題が厄介だ。
「辛いよな。泣きたければ泣いておけ」
「ひで君…どうして…」
「ごめんな。優が…お前さ、あいつを好きになって何回泣いた?」
俺は彼女に気になった質問をしてみた。
あいつ…優は悪い奴じゃないけれども、彼女の気持ちを思いやってるか
どうかが気になったから。
「覚えてないよ…こんなに泣いたのは初めてだよ」
涙を流しながら話す彼女を見て俺は思いだす。
彼女は決して強い子ではない。そんなことは俺が多分一番知ってる。
彼女が望むのは、ささやかな日常での幸せ。
俺も彼女のそばにいた時は彼女に与えていたと思ってる。
ずっと一緒にいると思っていた。けれども…繋いだ手を離したのは彼女だった。
今思えば、俺が全面的に悪いんだ。彼女と一緒になった試合会場で
いつものように囁いて、抱きしめて、キスをした。
その時、つい見えてしまった、制服のシャツから透けた下着のライン。
そんな彼女に欲情した俺は彼女を怖がらせることをしてしまった。
性に興味を持ち始めた頃だからって言ってしまえばそこまでだが、
そのことで俺といるのが怖いと言って彼女が俺から離れたのが
今から約2年半前の事。あの日の事は今でも思い出せる。
今は、ようやく声を出しながら泣きはじめた彼女を無意識に抱き寄せていた。
背中をトントンと叩いてあやす。昔から彼女が不安な時にいつもそうやっていた。
体は自然と反応していて、思わず俺は苦笑いをする。
別れて大分経つのに…未だに忘れられない愛おしい人。
優が本当に別れたとするのなら、俺がかのじょを攫ってもいいよな。
彼女に対する封印していた想いが溢れる。まだ…愛してる。
2年半の時間は俺達の姿を変えた。別れた時はほぼ同じだった身長は
俺が彼女を見下ろす形になっている。俺に肩に彼女の頭が当たる。
女の子特有のほのかに甘い香りがする。俺はつむじにキスを落とした。
「なぁ、とも。俺…お前が好きだ。俺の元に戻って来るか?」
俺は自然と彼女に復縁を求めていた。もう彼女の手を手放したくない。
「弱っている時に、入り込むのってルール違反だと…思うから
私はひで君の元に戻れない」
小さな声で彼女は答える。たしかに恋のルール違反だろう。
だけど…俺は自分の気持ちに嘘をつきたくない。
もう…腕の中にいる彼女を手放すことはできない。
「俺のこと好きでなくてもいい。だけど…俺はお前が好きなんだ。
あの日、お前と別れてからもずっとお前をどこかで思ってた」
「ひで…君…」
彼女がゆっくりと顔を上げる。びっくりしたせいか、涙が止まった。
「ようやく、泣き止んだな。すっげぇ顔」
「酷い。そんな事言わないで」
「でも…忘れるなよ。俺はお前が好きだ。手を離したくないんだ。
今は一人にしたくない。だから…我慢しろ」
俺は真っすぐ彼女を見る。この気持ちは本当なことだけは分かってほしい。
「ひで君…もう一度側にいていい?私…平凡な子だよ?何の取り柄ないよ?
それでもいいの?今の私はひで君を利用しているだけになるのに…」
彼女はゆっくりと言葉を考えながら俺に言う。
「俺はともさえいれば、それでいいんだよ。だから側にいてくれ」
俺は彼女を抱き寄せた。密着する体から聞こえる彼女の鼓動。
久しぶりに聞くその音に俺は癒されているのかもしれない。
「分かった。もう一度…ひで君の手を繋いでもいい?」
「もう…あんなことしないから…戻ってこい」
俺は少しだけ言葉を強めた。ちょっとズルイけれども…優の前でお前を
攫うことにする。俺はぼんやりと眺めている優を見ていた。
「分かった。もう少しだけ…泣かせて…ひで君」
そう言うと彼女は俺の背中に手を回して再び泣きはじめた。
「もう…絶対に離さないからな。俺のものだから」
「うん…ゆう君の事を忘れたいから…もう少しだけ」
ずっと求めていた、彼女を俺は再び俺のものとした。
前の失敗を二度と繰り返してはいけないと思いつつ、俺は再び
彼女の背中を撫でていた。
かなり強引だよなぁ。でも彼女が欲しかったのは事実だから。
あの頃よりは、俺も彼女も成長しているだろう。
これからはゆっくりと歩いていけばいいんだ。
だから…今はその涙であいつの思い出を流し去ってしまえと俺は思った。
ちょっと強引な人を書いてみたくなりました。