Parallel 虹の向こうにあるもの
時間的にはちい高校3年・智高校2年の冬服に変わったすぐ頃です。
互いの気持ちが通じ合い、ようやく恋人になった二人。
急に雨が降った放課後からスタートです。
本編に比べると智のキャラが若干代わっております。
パラレルだから大丈夫って方はどうぞ。
「ちょっと!!今日雨が降るって言っていたっけ?」
ホームルーム前の教室。急に降ってきた雨にクラスは少しだけ騒然としている。
中間テスト前の土曜日の放課後。
普通なら楽しい休日なのだが、明日は特別に学校がある。
オープンスクールと学校説明会だ。
皆はホームルームが終われば帰れるけど、お手伝いをしなくてはならない生徒会役員の私は残って打ち合わせをしないとならない。
「ちい、傘持ってる?」
「うん、生徒会室に置き傘あるからね」
「明日学校だものね。自転車で帰るか」
「そうだよ。章代は朝が弱いんだから。健と一緒に来るようになって遅刻が減ったんだからおばさんが喜んでるでしょう?」
「皆して同じこと言うし」
章代は苦虫をつぶしたような顔をしている。眉間にしっかりと皺が刻まれてるあたりから推察するに、相当ネタにされてるようだ。
「でも、二人が付き合ってくれて私はホッとしてるんだからね」
この二人が付き合うまでは、何でか私と三角関係だなんてアホらしい噂があった。
「何で三角関係だったんだろう?ちいの態度を見ていれば健の事を何とも思っていないの分からないかね」
私は章代に慰められた。そう、皆が思っているような恋なんて存在しない。
だから皆恋をする。もちろん…私だって。
「智くんとはどうなのよ?」
「ともくんとね、特に変わりはないと思うけど」
急に章代に話を振られて私は答えに困ってしまう。
恋人になってからの日は浅いけれども、その前に姉と弟みたいな関係を7年近く続けていたから良くも悪くも相手の事は分かっている。
そう言う意味では小学校からの腐れ縁な章代達と同じだ。
「でも、智君がマメにこっちにくるってことは、焼きもち焼きなのかしら?」
「さあ?どうなんでしょう?」
「ちゃんと答えなさいよ。ちい?」
「残念、先生が来たからタイムオーバー」
先生が教室に入ってきたため、章代の質問を強引に遮った。
二人きりでいる時の彼の事なんて…恥ずかしくて言えないとは言えなかった。
「じゃあ、今日は帰るね」
「いいのよ。もしかしたら、説明会の時に手伝い頼むかも」
「分かった。健もでしょ」
「できればね、頼むとしたら受付やってもらうって言っておいて」
「分かった。じゃあ、また明日ね」
章代はホームルームが終わって急いで帰って行った。
ホームルーム前のポツリポツリな雨はシトシト雨に変わっている。
私が帰る時は止んでいたらいいな。そんな事を考えながら私は生徒会室に向かった。
「お疲れ様」
生徒会室に入るとそこにはとも君しかいなかった。
「お疲れ、ちい。こっちにおいで」
彼は自分の所に来るように促す。私は自分の机に鞄を置いてから彼の元に向かう。
「皆は?」
「この雨だから、いつも通りと変更点があれば明日の朝教えてくれってさ」
要は、私達以外は皆して逃げてしまったようだ。
「全く…困ったものね。まぁいいか。副会長」
私は、他の役員に呆れる。
でも中間テスト前だし、この雨じゃ仕方ないかもしれない。
「去年と変更点があったら、自宅に戻ってから連絡するか。それよりもちい?約束は?」
付き合い始めるときに二人で約束したことがある。
二人でいるときは、役職で呼ばないこと。
いつ誰が来るか分からないから生徒会室では役職で呼んでいた。
とも君は副会長で、私は会計を努めている。
「こんな天気では、先生以外来ないさ。だから…な?」
とも君は私を引きよせて、とも君の膝の上に乗せられる。
「とも君、何?どうしたの?」
「だって、今日はホームルーム以外教室にいなかったろ?」
今日の授業は全て選択授業で、私達は1時間も教室にいなかった。
とも君の腕の中に収まった私はとも君の顔を見つめる。
いつもの厳しい副会長はそこにはいなくて、柔らかい瞳で私を見つめる人がいる。
「もう…甘えんぼさんだから」
「いいだろう?年下だからって思ってんだろ?」
拗ねた口調で反論する彼が可愛いと思う。
「ねぇ?私達は8カ月しか離れていないのよ。学年末が8月なら同学年なのよ」
「ちいはそう言うけど、英語部だからそういう感覚があるんだよ」
「変な言いがかり…でも、そんなとも君も好きよ」
そう、4月が年度初めだから一学年の差があるけれども、9月が年度初めなら私と彼は同学年になる。
ここは日本だからアメリカンスクールじゃない限り分かってもらえないけれども。
私はとも君の首に両腕を回して抱きついた。
いつもはクールでかっこいいって言われている彼はどこへやら。
今の彼は甘えん坊でちょっと強引な焼きもち焼きさんだ。
「ちいのそれ…反則。こっち向けよ」
「もう少しこのままでいたい。お願い」
私は彼の耳元で囁いた。彼の制服からほんのりと香る私と同じシトラスの香水。
「とも君の匂い…ホッとする」
「ちいはもうタイムリミット」
そう言ってからとも君は私の腕を解いてから両手で顔を包み込んだ。
「いけない人」
「いいだろ…んっ」
私が反論しようとする前に彼に私の唇が塞がれた。
「もっとキスしたいからキスをする」
いったん唇を離して彼は私に告げる。
強い目の力に射抜かれた私は動くことはできない。
角度を変えながら、幾度となく唇を合わせた。
「もう…唇が痛い」
「ごめん…やりすぎた」
少しだけ唇が痛い事を私は訴えると、彼は素直に謝ってから鼻の頭にキスを落とした。
窓の外には大きな虹がかかっていた。私は彼に窓を見るように言う。
「凄い虹だな」
「うん、そうだね」
「なぁ、虹の向こう側って何があるんだろうな?」
「そのうち探しに行こうね。一緒に」
「そうだな。一緒に行こう。好きだ。誰よりも好きだ」
そう言うと、とも君はきつく私を抱きしめる」
「知っているわ。ちゃんと受け止めてるよね?」
「想えば想うほど、俺の腕の中に閉じ込めたくなる」
「後7カ月したら、お嫁に行こうか?校則だと結婚はいけないとなってないよ」
「嘘?」
「見てみなよ。不純異性交遊はいけないけど、婚約と結婚は禁止していないよ」
「だから、直也が卒業前に結婚したのか」
とも君は自分の兄の事を思い出したようだ。
なお君の結婚にはちょっとだけ複雑な事情があったけど、とも君はそこのところは知らない。
「いいのか?これからずっと俺だけで」
とも君は不安そうに私を見ている。
「私はとも君がいれば頑張れる。だからとも君だけがいてくれたらいい」
「ちい…」
「とも君に私じゃ駄目かな?駄目だよね」
「駄目じゃない。ちいが欲しい。じゃあ、貰ってもいいのか?」
「いいよ」
「ちいの全てを俺が貰っても」
「私は…そのつもりだよ」
「今は心だけ貰っておくな。体は…その時が来たら…いいか」
とも君は躊躇いがちに聞いてくる。私はもう迷わない。
「うん、その時までにもっといい女になるね」
私はにっこりとほほ笑んだ。そして再び今度は長いキスをしたのだった。
おいたが過ぎる二人でどうもすみません。
二人の現実は本編が追いつくまでお待ちください。