Parallel あれ?ver直也
さあ?倒れた後は?まずは直也の場合です。
side直也
突然、トンと肩に何かがぶつかる音がした。満員電車なんだから止めて欲しいものだ。
「ちい?大丈夫か?」
あいつの隣にいる義人があいつを呼ぶ。返事をしない。貧血だろうな。
「義人。俺、こいつ連れて次の駅でいったん降りるわ。お前は学校に行けよ」
「えっ、でも…」
「俺は同じ学校だから、電話で用件が足りるけど、お前はそうはいかないだろ?」
「そういうことなら分かりました。俺が心配したことだけは…」
「あぁ、言っておくよ。そろそろ着くな。じゃあな」
俺は俺にもたれている彼女を抱っこして降りることにした。
真面目な彼女は制服を改造していないから、普通に抱っこしても問題ない。
スカート短くされると…パンツが見えちゃうだろ?それはやっぱりどうかと思う訳だ。
不可抗力でもパンツを見られたって知られたら、こいつのことだ機関銃のように文句を垂れるに決まってる。
小学校から知っているこいつはいい意味で賢いやつだから。
中学に入ってからは地味に過ごしているつもりだけども、その賢さまでは隠し切れていない。
それが却って見ていられなくて、ついつい構ってしまっていた。
俺には弟はいるけど、妹がいたらこうなんだろうなって何度となく思っていた。
去年のクリスマスの事だ。千葉の駅前を男と二人で仲睦まじく歩いている彼女を弟と見かけた。
彼女の口からは聞いたことはないが、ちゃんと女の子らしい事をしていたのだと思い、微笑ましく思っていた。
隣で見ていた弟は…ちょっと違っていたみたいだが。それは今は関係ないよな。
高校選択で俺が通う高校に決めたというのは、中学2年の冬の時点で聞かされていた。
もう、泳ぎたくないから、施設としてプールがない学校を探していたら俺の学校がそうだという。
世間的に進学校だから、学力は大丈夫か?と聞いたら今でも入れます。多分と強気な答え。
元々の彼女は気が強くって、勝気な発言をする。
言ったことは言った通りにするから多分成績的には問題がないんだろう。
彼氏とはどうなんだ?と高校入試の時に彼女に会った時に聞こうと思ったが思いとどまった。
あの時の彼女は全てを拒否しているように見えたから。
その理由は彼女の口からではなく、彼女の側にいる奴からあいつらが卒業前にこっそりと教えてくれた。
一方的な別れ。原因すらも分からないという。
勝気な彼女は普段なら受け入れそうもないのに、彼が嘘をついているからその守りたいものを信じると言って別れを受け入れたという。
恋をしたら女の子は強いんだろうか?ふとそんな事を思いついた。どうなんだろう。
彼女を抱っこしたまま、駅の事務室に入って、ソファーに寝かせて貰う。
青い顔というよりも、真っ白い顔。相当無理していたようだ。
「どうしますか?」
駅員さんに尋ねられた俺は、
「落ち着いたら学校に一緒に行くんで、それまではいてもよろしいですか?それと学校に連絡を入れたいんですが」
「その位構いませんよ」
駅員さんから了承を貰った俺は、早速学校に連絡を入れた。
「…という訳です。一人で学校に行かせるには不安が残るので、俺も一緒にいますので申し訳ありませんが、今日は遅刻しますので、よろしくお願いします」
「分かったよ。副会長の広瀬が言うんだから、余程体調が悪いみたいだな。佐倉は学校に着いたら保健室登校にしておくか。保健医にはこっちから伝えておくから。頼んだぞ。ところでお前ら、一緒に投稿しているのか?」
「えぇ。俺にとって妹みたいな存在ですから。目が離せないんですよ」
「そうか。じゃあこれから職員会議だから」
生徒会顧問の藤田先生は電話を切った。
そのまま俺はもう一軒電話をかける。千世の家だ。彼女の家は学校から近いから徒歩通学だ。
今の時間ならまだ家にいる。
「あぁ、千世か?直也。悪い、ちいが貧血で倒れたからあいつが回復してから一緒に登校する。このまま駅に放置していくのはお前が嫌だろ?」
「当然。じゃあ、ちいちゃんをよろしくね。ちいちゃん、精神的にキテるみたいね」
「多分な。学校に着いたら、千世の所に行くな」
「分かったわ。じゃあ、ゆっくりいらっしゃい」
千世はそう言ってから電話を切った。
千世と俺は恋人になってもうすぐ1年になる。
たまたま文化祭の用事で生徒会室に行った時に千世に手伝いを頼まれて、それを手伝ってそのまま生徒会に居座るようになった。
気が付いたら副会長になっていた。
副会長になったのと同じように気が付いたら彼女に恋をしていた。
いつもなら駅からバスに乗って、千世の家の近くで降りて千世と一緒に学校に行くのが俺の日常。
それがちょっと違うだけ。
焼きもち焼きの彼女でないのは救われるが、なんにでも理解があるのもそれはそれで寂しい。
「あれ?ここは…どこ?」
「ちい、気付いたか?貧血起こして倒れたんだよ。顔色が戻るまで寝てろ。学校には連絡してある」
「ありがとう。でも、千世先輩は?大丈夫なの?」
「平気さ。あいつもお前が倒れたことの方が気にしていたぞ。義人も…な」
「感謝しないとね、私」
「そうだよ。お前は一人じゃない。分かったか?」
「うん。分かった。なお君を振り回していない?」
「かわいい妹なんだから、気にするな」
俺は彼女の顔を見る。まだ青白い顔。
「動けるならベンチに行こうか?」
「うん、その方がいいよね」
俺は彼女の荷物も持って、彼女の脇を支えた。まだふらつく体。
学校認定なんだからゆっくり行くか。
「すみません、ありがとうございました」
「いいえ、無理しないでね。優しい先輩だね」
「はい、私の自慢の先輩です。なお君、行こう」
ゆっくりと歩き出す彼女に合わせて俺も歩き出した。
「まずは、血糖値上げた方がいいな。何か飲んでおけ」
俺は彼女に甘さだけが売りな缶コーヒーを手渡した。
「ありがとう。本当にごめんね」
彼女は申し訳なさそうに謝る。
「精神的に疲れてたんだろ?たまには休もうぜ」
俺はそう言うと缶のプルトップを開けてジュースを飲む。
「たまにはいいなぁ。こういうの」
「こういうの?学校を遅刻してのんびりジュース飲むのって」
「いけないんだよ?」
真面目な彼女は俺の発言を窘める。気持ちは分かるけどな。
「まじめ過ぎると息が詰まるぞ。たまにだからいいんだよ」
俺は彼女のおでこにデコピンをしてやる。
「分かったよ。それにしても痛いなぁ」
「悪かったよ。飲んだら次の電車で行こうな。お前今日は保健室な」
「へっ?」
「先生が教室に言っていいと言うまで寝ていること。分かったな?」
「どうして?」
「無理するといいことないからだ。後で様子を見に行ってやるから」
「なお君は暴君だからな。言う事を聞いておくよ」
彼女は諦めたように呟いた。
「そうさ。俺の言う事を聞いておけばいい」
俺は彼女に微笑んで言ってやった。
sideちい
あーあ、貧血だって。そんなに疲れていたのかな?
なお君暴君だから、反抗すると後で厄介だから…大人しくしておこう。
でも、一緒に遅刻することはあるのかな?
絶対にサボりの口実にされてる気がするんだけども。
彼女の千世先輩にも伝えたから気にするなって言うけれども、その方が気になるって言うの。
私…なお君の彼女じゃないんだから。もう少しそういった配慮を見せて貰いたいんだけど。
それを言ったら…拳骨が降ってきそうだから止めておこうっと。
久し振りに、甘いものを飲んだ気がする。ささくれている心に染みて行くような気がする。
もう少し、しっかりしないと。皆にこれ以上心配されたくない。
今夜はちゃんと寝ないとね。
side直也
「あぁ、助かった」
「なんでですか?」
ようやく顔色が戻った彼女を連れて電車に乗る。
「俺さ…英語の宿題やってなかったんだよな」
「やっぱり…サボりのいい訳に私を使わなくってもいいです。今度からは放置して下さい」
つい、言ってしまった俺の本音を聞いて彼女は頬を膨らませた。
「悪かったよ。とにかく学校に行こうな」
電車は俺達が降りる駅に滑り込むように入って行った。
こいつといるとつい本音が出るんだよな。気をつけないとな。
俺が彼女のことを、ただの妹として見れなくなりつつあることを。
それが恋心なのか、そうじゃないのか、まだ分からない。
答えによっては腹を括るしかないなと俺は思った。
サボりの口実に使われちゃいましたが、直也自問しています。
次は義人の場合。他校生である義人は一体どうする?