Parallel さくら!!
一度やってみたいと思ったことありませんか?
千葉駅前で千葉さんに向かって千葉!!って叫ぶ
ってな訳で、佐倉の駅前で佐倉と叫んでみましょう。
叫んだ相手の名前は出しません。ご自由に変換下さい。
「今度の休みにお城を見に行こう」
最近付き合い始めた彼氏と恒例になった電話。
ついさっきまで、私の家にいたのに電話する必要あるのって思うけど口にしない。
「お城?いいけど、家にいるときに聞いてくれれば良かったのに」
「あぁ、さっきバラエティー番組でその城が出てたから行ってみたくなった」
「ふぅん。それならば納得だね」
「だろう?とりあえず今はそれだけな。明日も迎えに行くからな」
「分かった。おやすみなさい」
「おやすみ…チュッ」
彼はいつも電話を切る時に電話越しキスをするようにしてくる。
それに照れて真っ赤になる私を想像するのが楽しいって言うけど、人が悪いよね。
お城か。わざと聞いてこなくてもいいと思うんだけどな。
今日が木曜日だから、今度の日曜日ってことだよね。私は手帳に予定として書き込んだ。
「いいか?明日の朝迎えに行くからな」
「どんな服でもいいの?」
「ボディコンでなければ」
「私が持っていると思う?」
「持ってたら拝みたいものだ」
彼は意地悪くニヤリと笑う。私がそんな服を持っていないのを知っている癖に。
「もう…知らない」
私は頬を膨らませて、そっぽを向いた。
「こら…こっちを向けよ」
「嫌だもん」
最終的には彼の言いなりになるのは分かっているけど、反抗を試みる。
「そう言う奴はこうだ」
彼に後ろから腕を回される。背後から香る彼の匂いが鼻をくすぐる。
「なぁ、こっちを向けよ。俺も悪かったから」
彼が耳元に唇がくっつきそうな位に近づいて囁く。
そんなことされたら私が白旗を上げるの分かっててやるんだから…全く。
「分かった、降参」
私が呟くように敗北宣言をすると、彼の腕が緩まるので、くるりと向きを変えた。
再び腕の中にすっぽりと収まってしまう。家の前の道路。近所の人の目が痛い。
「これ以上はしないから。今日はこれで帰るな。愛してるよ」
と彼は甘い言葉を紡いだ後、私のつむじにキスを落として帰って行った。
「全く…恥じらいってものはない訳?あの人は?」
彼の背中を見送りながら私は彼に向って悪態をついた。
彼と付き合うようになってそれなりの時間が過ぎている。
彼になってからの時間は短いけど、彼自身を知ってからはかなりの時間がたっているから彼の事を知っていると思っていた。
それが甘かった。こっちがげんなりする位な甘い言葉とびっくりするほどの束縛。
それが嫌と私は思わない。それだけ彼が私の事を思っているってことだから。
時間がたてばそれは収まると思っていた。
現実はそうではなくて、最近では「俺のもの」と言わんばかりな発言と行動。
そろそろ、その行動を諌めようと考えていた。
明日のデートで、いつものようなら喧嘩になってもいいから言うつもりだった。
息が詰まっちゃうよ。世界が狭まるのは良くないからって。
「ねぇ?お城ってどこに行くの?」
「佐倉。おもしろい展示があるんだって」
「ふぅん。そうなんだ」
「そうそう、京成線に乗り換えるからな」
「へぇ。滅多に乗らないから楽しみ」
少しだけはしゃいでいる私を彼は目を細めて見ていた。
「珍しいな」
「何が?」
「はしゃいでるお前なんてさ」
彼に図星をつかれて私は口をパクパクする。
「そんなことをしてると」
「してると?」
私はよく分からなくて彼に問いかけたとたんに抱き寄せられた。
「可愛いから…キスしてもいい?」
「だめ、人がいるもの」
「そんな理由は認めません。残念」
残念と言いながら彼の顔が近付いて私の唇を軽く触れる。
「もう!!」
私は顔を真っ赤にして彼の胸を叩いていた。
「無事に着いたな。悪いトイレに行きたいから、先に改札口を出てくれないか?」
どうにか佐倉の駅について、いきなり彼に言われた。
彼に指示された改札口を出て、彼を待っていた。
「…らぁ!!さくらぁ!!」
なんか彼が叫ぶ声が聞こえてきた。何が起こったんだろう?
私はゆっくりと振り返った。そこにいるのは満面の笑みの彼だった。
彼は、力いっぱい私を抱きしめてから、こう言ったのだった。
「さくら、会いたかった。本当に会いたかった」
私は一気に力が抜けて行くのを痛感した。今日のデートは佐倉の駅前で私こと佐倉倫子と
彼が叫んで抱きしめたいという、独占欲全開の行動をしたかったということだ。
お城と言ったのは、私を連れ出す口実でしかなかった訳だ。嵌められた。
駅前に私達はいるはずなのに、私達がいる空間だけは空いたまま。
こんな熱烈なラブシーンを繰り広げられたら…そうなるよね。
ひとしきりこの状況を堪能したであろう彼に私は問いかける?
「ねぇ…楽しい?」
「うん、俺はすっごく楽しい」
満面の笑みで答えられてしまうと怒って反論する気が一切なくなる。
「そう、暫くこうしていればいいのかしら?」
「うん。だって…やってみたかったんだ」
「殴ってやりたいけど…その気もなくなったわ。愛すべきおバカさん」
「最大級の褒め言葉として受け取ります」
そう答えると、彼は更にきつく私を抱きしめて更に囁いた。
「もう、一生離さないから。覚悟しなさい」
この答えは今すぐにはしてあげない。すぐに答えたら調子に乗るのが分かるから。
「そう。その答えは今言わない」
「なんで?俺の事嫌い?」
一気に叱られた子犬のように沈む彼を見て、私は微笑んだ。
「愛してるわ。覚悟するのに時間をちょうだいね」
「分かった。それじゃあ、手付けしておこう」
そう言うと、彼は私のおでこにキスをした。
もう今の彼に何を言っても無駄だと思って、彼の気のすむまで晒しものになった私だった。
私が元夫と恋人時代に私が仕掛けたことです。結果は拳骨が降ってきました(笑)