If story 伝えたいこと
ちいの失恋を目の当たりにして、自分の恋を封印した創という前提で話を勧めます。スタートラインは、1章3節7話の理絵とやり合った後の帰りからです。
「大丈夫か?」
「何が?」
理絵とやり合った後の帰り道。俺はちいと二人で歩いている。
他のメンバーは智子は方向が違って、ヤスと静香は自転車通学。
当事者の理絵は先生に捕まっているからまだ職員室。
なんだか疲れた顔をしたちいが気になった俺は彼女に尋ねる。
「疲れた顔しているぞ」
「ちょっとだけね。創君も巻き込んでごめんね」
「俺や智子が巻き込んだんだぜ。お疲れさん」
そう言った途端にグゥゥとなる。なぜここで腹がへる?
「お腹すいたの?成長期だものね。創君も背が高くなったね」
「人並みにな。腹だってへるさ。もうすぐ5時だぜ?」
「そんなになるんだ。私もお腹がすくわけだ。で、食べる?」
彼女は鞄の中から小さなきんちゃく袋を出した。
中からチロルチョコを一つ取り出した。
「いいのか?」
「うん。私は飴食べるから」
彼女からチロルチョコを受け取って口に放り込んだ。
甘いチョコが口いっぱいに広がる。
「たまにはいいな。こういうの」
「うん。先生に見つかると怒られるけどね」
彼女はそういってかすかに微笑む。
数週間前に彼女の身に起こった事件は俺にとっても衝撃的だった。
俺の知らなかった、彼女の側面を思い知らされた。
小学校の頃から、ずっと同じクラスで一番傍で見ていると思っていた。
でも、現実はちょっと違って、彼女を支えていた男は違う所にいた。
校内でそんな話を聞いたことがないから、恋をしたことがないんだと自己解釈していた。
それが覆されたのは、3学期の始業式の後。学校見学に行く時に見た光景。
通りの対面側を俺の知らない男と手を繋いで楽しく歩く彼女。
二人とも制服姿。男は他校の奴らしい。
校内では、心を許して話してくれるのは俺しかいないから俺が一番近いと思っていた分、その時は裏切られた気持ちでいっぱいだった。
次の日、彼女にそのことを聞き出そうと試みたが、プライベートをあまり明かさない彼女がすんなりと話してくれるとは思えなくて、そのまま聞き逃してしまった。
私立の推薦入試が始まったあたりから彼女の周囲に変な噂が広がる。
お金があるからお金でものをいって、S高を受けるらしいとか、内申を良くしてもらったとか。
無関係の俺が聞いても耳を塞ぎたくなる内容だった。
当の本人は、知っているのか、知らないのか…見ているこっちがいらいらした。
「お前学年順位ってどの位?」
「どの位って…学校だったら片手だけど?」
俺が誰にも言わない事は分かっているのに、順位を特定しない言い方をする。
「そうか。お前らしい答え方だな。だとしたら、お前の進路としてはもっと上に行けないのか?」
「それはね…。去年の体調不調からの欠席があるからね。公立はきびしくなっちゃうんだよ。私立だと理由的に問題はなかったんだけども」
「問題ない?」
「うん、私学校説明会に行ってちゃんと言質とってあるもの。校長先生からね」
「そういうことをやるのもお前らしいや。頑張れよ」
俺はそう言って励ますしかできなかった。N高に用事があったのか位聞けば良かった。
私立高の試験が終わった後の彼女は何も見えていない、何も感じていない様に思えた。
聞いていないというよりも、聞いてすらいないのかもしれない。
あまり感情を表す方でもなかったけど更に酷くなって冷たい表情しか浮かばない。
あまりの豹変ぶりに俺は戸惑った。入試の間に何かがあったことだけは分かった。
俺は同じ学校を受けていた、静香に彼女に何が起こったのか聞いた。
静香は放課後、静香の家に来るようにとだけ俺に告げた。
その日の放課後、彼女の口から聞いた言葉は俺にとってはショックの連続だった。
俺の知らない間に二人の男と付き合っていた彼女。
そのことに焼きもちを妬いた訳ではなく、不自然な別れ方を受け入れると言って涙をこらえる彼女の姿だった。
その時思ったのは守ってやりたい。それが恋人でなく、幼馴染でもいいから隣にいたい。
クラスの皆に何を言われても構わない。もう、自分の気持ちを封印したくない。
高校は確実に別の学校に行くことが決まっている。しかも俺は、彼女を捨てた男と第一志望が同じだという。高校に入ったら、その男を探そう。そしていずれは別れの原因を聞こうと思っていた。
「まだ、笑えないよな」
「創君は鋭いね。そんなに私の事不安?」
郵便局前の交差点についた。俺と彼女はここで道が別れる。
でも、今日はまだ別れたくなかった。
「そうだな。感情がまだついてきてないだろう?」
「うん、笑い方を忘れてしまったみたいな感じなの。微笑むくらいまではできるんだけども」
「それだけ、ショックだったってことだよな」
「そうだったのかもね。全てがね、夢の中みたいなの。分かってるよ。現実なのは。でもね、心の中ではコレは夢でいつかは覚めるんだって思っているの。馬鹿みたいでしょ?私」
彼女はそう言うと俯いてしまった。
彼女は皆の前では強がって終わったことって言っているのに、当の本人は終われていないんだ。
俺はそんな彼女に何をしてあげられるのだろう?
彼女の重荷にならないで、彼女を守る方法はあるんだろうか?
「もう少し話そうか?聞いてやるぜ。公園に行こう」
「創君の家の前の?」
「あぁ。俺の家でもいいけど、誰かに見られたらまた問題になるからさ」
「分かった。もう少しだけね」
彼女が小さな声で同意したので。俺達は公園のベンチに腰掛けた。
「ちいは、どうしたいんだ?」
「どう…ね。分からない。でも一人ではいたくない。今いるところは真っ暗で一人でいるような感じ。どこに進めばいいのか分からなくって、一歩も出ない感じかな」
「そんなになるまで、どうして助けてって言えないんだよ」
俺はそっと彼女の手に自分の手をのせた。あわせた手から自分の思いが伝わったらいいのに。
「創君?どうしたの?」
俺の行動に不安になった彼女が俺に尋ねる。
「伝えたいことがあるんだ」
俺は真っすぐ彼女の目を見た。俺だって、やれば出来る子なんだ。やれば…
「俺が側にいる。学校が違っても側にいる。俺がお前を守ってやりたい。俺じゃ…ダメか?」
「私、今…分かっているでしょう?」
「あぁ、分かってるさ。でも、今のお前を一人にできないんだ」
「創君、それって私が嫌な女になっちゃうよ。男に振られて創君に簡単に乗り換えたって思われちゃうよ。それでもいいの?」
「俺が…ずるいんだろうな。でもそれを使ってでも側にいたいほど…。今は深く考えるな。一人にしたらお前の方が危ないから側にいる。それ以上もそれ以下もない」
「そこは…反論できないな。じゃあ、側で見守っていて。それだけでいい」
「分かった。でも覚えてくれな。俺…お前の事、これからもずっと好きだから」
「肝に銘じておきます。危ないことをしないように見ててね」
「あぁ、見ててやるよ。一人で頑張ったな。もう一人じゃないよ」
俺は彼女を引きよせた。彼女は俺の肩に少しだけ体重を預けて声を出さないで泣く。
ずっと我慢していたのが良く分かる。俺は彼女の背中を暫く撫でていた。
「創?何しているの?」
ダイニングの方から彼女が俺を呼ぶ。
「書斎にいる。こっちにおいで」
俺は静かに彼女を呼ぶ。彼女はスリッパの音を立てて走ってきた。
「びっくりした。どこに行ったのかと思った。何?アルバム?」
「あぁ、久し振りに見ていた」
「アルバムを持ってリビングに行こうよ」
「そうだな」
俺達はリビングに移動した。
あの時俺の告白の通りに俺達はずっといた。
告白から1年後に彼女から、俺といることしか考えられないと告白してくれて恋人になった。
喧嘩もしたし、お互い泣いたり、泣かされたりもした。
それから二人で同じ大学に入った。学部は違うけれども同じ空間で過ごして、卒業前に一緒に暮らし始めた。
「ありがとね。創」
「何がだ?ちい」
「あの時、一人ぼっちにならなかったから」
「もう、昔のことだ。あの時以上にお前の事を愛してる」
「私も愛してる」
俺達は自然に顔を寄せて唇と合わせた。
「ねぇ、今夜は早く寝ないといけないのよ」
「分かってるさ。でも、今日は最後の日だな」
「うん。私が佐倉でいる最後の日ね。明日から太田になるのね。大丈夫かな?私?」
「慣れていってくれな」
俺達は明日結婚する。あの日の俺の行動が今の俺達の繋がるとかあの頃は思ってなかった。
小学校からの初恋を叶えた俺。彼女は違うけれども、それは寄り路だったのねと今では笑って話す彼女。
そんな彼女と俺はこれからも歩いていく。平凡でも幸せな毎日でありたい。
「創?どうしたの?」
「えっ?なぜ?」
「泣いているわ」
彼女はそう言うとそっと俺の瞼を拭う。少しだが俺は泣いていたようだ。
「幸せすぎると涙が出るのかもしれないな。ちいのお陰だ。ありがとうな」
「優しい旦那さまで私も幸せよ。すぐじゃなくていいから、家族を増やそうね」
彼女が意地悪く囁いた。家族を増やすか…。彼女も前に進み始めた。
「そうだな。そのうちにな」
俺は再び彼女にキスをした。
その後はご想像に任せます。
こういう傾向の妄想が止まりません。
湿気で脳が壊れたみたいです