番外編 君の事が好きだから
優がちいに告白する前のひとコマです。昨日あきらにされたことです。
(詳しくは、活動報告ショックだったこと参照のこと)
優視線で進めています。
「お待たせ、待った?」
「そんなことないよ。それじゃあ行こうか」
待ち合わせの場所に息を切らしてやってきた彼女のカバンを持った。
「息が落ち着くまで持ってあげるね」
「はあ、ありがとう。ゆう君」
土曜日の午後2時。駅前ロータリーは人が多い。11月も下旬。
町は来月のクリスマス一色に彩られていた。
俺は彼女の事を気遣っていつもよりはゆっくりと歩きはじめた。
「世間的にはクリスマスか」
俺はイルミネーションの装飾をしている街路樹を見ながら呟いた。
「そうだけども、今年はそれどころじゃないんだよね」
「世間的には…だろ?学校の面談ではどうだった?」
「K学園は難色示されたけど、どうにかなりそうだよ」
「そっか。じゃあ、一緒に受けれそうだな」
俺は彼女に向かって微笑んだ。しばらくして彼女はほんの少しだけ頬を染めてはにかんでいる。
かわいいなぁ。今になって3ヶ月位前に俺が取った行動を後悔する。
塾の合宿に参加した俺は、最終日に告白してきた彼女と付き合い始めた。
告白されて、断る理由がなかったから付き合っただけだった。
あの時から俺は彼女のことを意識していた。大人しいがちゃんと自分を持っている彼女に俺は好感を持っていた。
「もしかして、俺って馬鹿?」
「どうしたの?ゆう君?」
俺がつい呟いたことに彼女が問いかける。
気にも留めなかった女の子から告白されたから付き合った俺はどう考えても馬鹿だろうな。それをうっかり聞かれた事が恥ずかしい。結局、その彼女とは2週間後には別れてしまった。一方的に燃え上がっていた俺は結構落ち込んだものだ。
「美紀と付き合ったこと」
「さあ?でも、急がば回れってこともあるし。美紀ちゃんといた時間はゆう君にとって何かプラスになったと思うよ。きっとね」
彼女は俺を気遣いながら、優しい言葉を紡いでいく。俺にとってプラスな事か…。
「そうかもな。今の俺なら分かるかもしれないな」
無意識に俺は彼女の頭を撫でていた。思った割に小さい頭で俺はびっくりした。
「りんって、もしかして頭が小さい?」
「うん、だから帽子が似合わないんだ」
彼女は小さな声で呟いた。顔が小さいからかわいいと思ったんだけども、彼女はコンプレックスなんだ。ちょっと意外な彼女の悩みを知れて嬉しくなった。
「ゆう君は、また身長が伸びたね。私達が知り合った時よりも凄く大きくなったよね。いいなぁ」
信号で立ち止まった時、彼女は俺を上目遣いで見てポツリと呟いた。
俺達が知り合ってもうすぐ2年になる。あの頃は確かに俺の方が背が少しだけ低かったっけ。
今の俺達は約15センチくらい俺の方が高い。男としては低い方だからまだまだ背が伸びて欲しい。
「やっぱり、背が高い男の方が好きか?」
「私より背が高ければいいかな。あんまり気にしてないよ。どうして?」
自分より背が高ければ十分って言う彼女の言葉は俺の心を浮つかせる。
あの頃は気付かなかったけど、今なら分かる。美紀と付き合う前から俺は彼女の事が好きだった。
受験の追い込みな今に彼女に告白なんてしていいものか?と考える。彼女はどう答えるんだろう。
中央公園前のスクランブル交差点まで歩いてきた。何かイベントがあるのか人の流れが多い。
自然と俺は彼女の手を握った。彼女の体が少しだけ硬直した。
「今日のゆう君…変」
「どうして?」
「だって、さっきだって頭撫でてたでしょ。それに今だって…」
そう言うと彼女は俯いてしまった。長い髪の毛から見える耳は赤く染まっていた。
「悪い。頭を撫でたのはそうしたかったから。手を繋いだのは、こんなにたくさんの人がいたらはぐれちゃいそうだから。嫌だったか?」
俺は彼女を伺うように見つめる。
「嫌じゃないよ。びっくりしただけ。他の子にもこういう事するの?」
彼女は俺に聞いてくる。いくらなんでも、他の子には…というより、誰にもしたことない。
「そんなことしないよ。さあ、信号が変わるよ。マックで時間まで勉強しようぜ」
俺達の本来の目的は、塾の授業の前に教室やマックで勉強することだった。
今日は俺達の時間の都合がいいから、マックでおやつをしながら勉強することになっていた。
授業が始まるのは6時から。後3時間はたっぷりと勉強できる。
「ねぇ、ゆうくん。クリスマスイルミネーション12月1日からなんだって」
「へぇ。そうなんだ」
「今年は土曜日だから、今日見たく勉強していたら見れるね」
「そうだな。きれいなんだろ?」
「うん。きれいだよ。でも受験生にはロマンチックはいらないか」
「いいんじゃねぇの?その位」
先週の塾の授業の後に彼女がクラスの女子と話していたのを思い出した。
「だったら、その時もマックで勉強しようぜ。ちょっと浮かれてもいいだろう?」
「いいのかな?」
彼女は不安そうに俺を見ていた。
「なんで?」
「私と一緒で言いの?わたしよりも、もっといい子だっているのに」
「何言ってるんだろ。お前だっていい子だよ。自信持てよ」
俺はそう言うと、再び彼女の頭を撫でていた。
「もう…ゆう君ってば」
「なんか、撫でていたくって。暫く…我慢してくれよ」
彼女からの反論がないのをいいことに暫く俺は彼女の頭を撫でていた。
本当は彼女の事が好きだから。ちゃんと勉強もするけど、側で見ていたいから。
凄く、触れたくって無意識に頭を撫でてしまった。手も繋いでしまった。
繋いだ手から伝わる彼女のぬくもりは俺の心を温めるには十分だった。
君の事が好きだから、触りたいと言ったら、君はどうする?
止めてと言う?恋愛対象としては見れないって言われる?今は無理って言う?
彼女は地味かもしれないけど、気配りが十分できて、話す言葉にも十分気を使う。
そんな彼女の素の部分を知りたい。さっき垣間見た彼女は今まで見た中で一番可愛い彼女だった。
もっと、そんな彼女を見たい。俺の中の独占欲がこれでもかって刺激する。
もっと彼女を知りたい。その気持ちを今は心の奥底に封印して俺は彼女に微笑んだ。
「さあ、時間まで勉強しようか。受験生だものな。お互いに」
俺は彼女の手を取ってマックに入って行った。