謎の男の子に女の子!?みんなで一緒にキラッキラ!その2
どこまで行っても変わらない森を抜けた先にあったのは、古めかしい木造建築だった。そこだけ絵本の世界であるような幻想さを兼ね備えていて現代の雰囲気から異常なほど逸脱しているが、それが気にならないほどに自然と合致していた。
あれだ。ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家みたいな感じ。入ったら最後、出られなさそうなやつ。
そんな古民家を見て俺は、少し記憶を遡っていた。
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あの後足がもつれながらも必死で走って今日から我が学舎となるはずだった場所にたどり着いた俺は、事情を校門前の警備員さんに伝え、中に入れてもらった。(さすがに目の前で起きた摩訶不思議な出来事は伝えていない。電車が止まったとか、そういう嘘である。どうやら同じ時間帯にマジで止まった電車があったらしい。今日初めてのラッキーだぜ)
校長室に連れてこられた俺は、嘘を信じて疑っていないお偉いさん達の中に放り込まれ、ルビーと一緒に軽く自己紹介をした後、入学式のことを謝り、無事に脱出することに成功した。授業に必要な教科書類はこの後ルビーのデータベースに届けられるそうだ。
とりあえず一安心といったところか。
ついに俺は待ち望んでいた本物の帰路につくことに成功したのだった。
あーマジで疲れた。さすがに今日は良い夢見れそうだぜ。
そんな人生に疲れ果て道に迷っているホームレスのような足跡を刻んでいる俺の耳をかすめたのは、ルビーのごく小さい声だった。
「あれぇ、なんだか知らないファイルがぁ…」
何だ、まだ何かあるのか。今日はイベント盛りだくさんじゃないか。もう俺は数時間前から気分だけは布団の中なんだが。
面倒だと思いつつも、聞こえない振りをするわけにはいかないので、「どうした?」と聞いた俺に対しルビーは一枚の画像を突きつけてきた。
「さっきの森か?」
そう、その画像は先程ルビーがイチから生成したマップデータだった。しかし、何か先程と違う。そう思いじっくりと眺めてみると、拡張されたマップデータに写るのは、森の中にあるには不自然すぎる明らかな人工物であった。
これ家だよなぁ。さっきまでここにこんなのあったっけ。
「こんな建物さっきまで無かったはずなのになんでぇ…?」
やはりルビーもそう思うと、その言葉が物語っていた。
それについて頭を捻り、考えている俺達の元に届いた通知音の正体は、希良元きららを名乗るものからのメッセージだった。
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「で、そのメッセージ通りここに来たわけだが…」
これは、そのメッセージの全文である。
「やっほ~私、さっきの魔法使いだよ!まだ確認したいことがあるから出来れば私の家に来てほしいな★あっもちろんaiの子も一緒にね♪来ないと私泣いちゃうかも~( ノД`)…絶対来てね♥」
これを読むルビーの声は震えていて、それを聞いた俺も、どんな感想を抱けばわからないし、突っ込んでいいのかもわからないような、もどかしい、それでいて複雑な感情に追われたのだった。でも持った感想はただ一つ。
大丈夫、皆まで言うな。俺が代表で言ってやる。
こいつキャラ変わりすぎだろ。
ということで。
学校一日目が終了した俺は、皆が友達何人できるかなチャレンジを必死に遂行し、仲間を増やそうとしている中、そそくさと疾風のごとく教室を出て、廊下を小走り、校門から出て、ルビーのナビを頼りにここまで来たのだった。
しかし、まったくイメージ通りの民家である。いや、民家と言うより小屋という方が近しいか。まったく生活感を感じない大きさの小屋サイズの民家は、存在感は皆無で不自然なほど自然物と化していた。
不自然なのに自然に馴染んでいる。
皮肉にもなっていない一言を心の机に置いて、俺はその場から動けないでいた。辺りが植物の匂いで満たされるなかそびえ立っている、異質であり普遍的である建造物を前に脳がショートしているらしい。ルビーもどうやら同じようで(眠っているだけかもしれない)一言も発さないのだった。
こういう時だけは空気を読むような奴だ、と思ったが寝息が聞こえたので本当に寝ているらしい。ここまでの道のりで疲れてしまったのだろうか。
「おっと、定時通りか。意外としっかりしてるんだね~」
そんな風の音すら聞こえない凪を破ったのはおどけた彼女の声だった。いつの間にか目の前に立っていた彼女、自称神の魔法少女紛いのロボットは昨日の派手さとはうって変わって、地味なジャージに身を包んでいた。その手には大きな袋が握られていて、大量の雑草と思われる緑が詰められていた。草むしりをしていたらしい。さっきから漂う植物の匂いの正体はここだった。
そんな彼女は所々使い込まれているのが見え隠れするジャージ姿で袋を携えている姿はまるで休日庭の手入れをしている専業主婦のようである。
「なぁに立ち止まってんの、さっさと中に入って入って」
と立ち止まり動けずにいた俺を先に促し彼女は前を進んでいく。もうほんとに目の前で起こっているちぐはぐな景色に対してこれ以上面倒ごとに巻き込まれたくはないという気持ちが滲み出ている足を無理やり動かし先に進む。
もうこれ以上何が起きても驚かないし止まらない、そう決意した。
小綺麗で一昔前の住宅のような玄関を抜けた先には、外装からは想像もつかない部屋の大きさの、なんかこうすごく生活感のある部屋が広がっていた。
そこそこの大きさのソファーに、さっきまで飲み物が入っていたことが予想されるマグカップ、天井の出っ張りに引っ掛けてあるハンガー、あれは確か...ブルーレイかな?ディスクの形状のケースが積んである机、そしてその机にはこたつが備わっている。
教科書に載っているぐらいの現代では類を見ない家庭がそこに広がっていた。この前と同じで唐突にタイムスリップさせられたかのような衝動にかられる。
「そこらへんに座っといていいよー」
私は着替えてくるから〜と戸惑い身動きがとれない自分をよそに奥に引っ込んでいった彼女はそう言い放っていった。
もう、さっき決意したばっかなのに。止まっちゃったよ。
でもやはりここは座った方がよい、そうは思っているものの体は動いてくれない。くそっ、こういう時ですら動かないのか俺の体は。耳元で寝息が聞こえる。呑気に惰眠をむさぼっているようだ。俺も眠くなってきたぜ。もう何も考えずベッドに飛び込みたい。
そんな硬直した物語を加速すべく、さらなる登場人物を紹介しよう。
そう、それは動けなくなっていた俺を開けた扉から見ていた彼女と目が合う所から始まるのだった。
それが本日何度目かの不可思議の始まりだった。
「あら、お客さんが来るなんて珍しいですね」
さっきまで俺が話していた自称神様の面影が見える少女がそういったあと、更なる混乱に頭がグルグルしてきてもはや状況の説明も出来なくなってきた俺は、いつの間にかクッションがものすんごく柔らかいソファーに座っていた。
いや、座らされていたのかもしれない。
いつの間にか元居た場所から居なくなっていた彼女は、いつの間にか机の横に立ってさっきまで影も形もなかったお盆にあったかい飲み物が入っていることがありありと伝わってくるティーカップを乗せていた。そしてさっきまでの光景が嘘のように整頓されている机に一つずつ配膳されていく。よく見るとさっきまで干してあったハンガーなどもすべて消えていた。
急に登場した謎の少女によって、急に部屋から生活感が失われた。ドリンクのおまけ付きで。
簡潔に言うとそういうことだ。
「熱いので気を付けてください。砂糖とミルクはお好みで。何もありませんがごゆっくりお過ごしください」
いつの間にか机に角砂糖が入った瓶とミルク瓶も置かれていた___と言ったそばから、傍らを見るともうそこには少女は居なかった。
見た目的には同い年ぐらいだろうか。まさかあれもロボットなのだろうか。しゃべる暇もなかった。だがそれよりも、何よりも、
あの瞬間行動は何だったのだろうか。
気づいた時には、という感じだった。
元々そこにあった光景かのように湯気を立ち延ばしているティーカップと元々片づけてあったかのようなリビングの光景が目に飛び込んでくる。そんな景色がさっきまでの出来事がまるで嘘ではないということを物語っていた。
もうやだ。最近すごくファンタジーだよね。なんか自分の周りだけ世界が変わったみたいだ。現実を逸脱しすぎている。現実を逸脱しているからフィクションだというのにもはやフィクションがノンフィクションである。これは紛れもない現実だ。ビジョンではない。
物思いに沈みながら目の前の霧を眺めていた俺の耳に突如として鳴り響いたドアを開ける音は、この静寂を破りやっと物語が進むことの合図だった...