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十三の陸と一つの海 ~竜脈争奪戦を終わらせた英雄たちの旅について~  作者: 十方歩
第一章 第一大陸編 上・小勇者の旅立ち
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作戦会議

 一行は慎重に西回りで森の縁を歩いた。ここまで健気について来ていた怪鳥の雛は、森の南に見つけた薮に隠しておく。

 変化に敏感なセテは先頭、小さいリアネスは二番目だ。だから、イルアンよりも先にリアネスが目的のそれを見つけたのは視野の問題であって、水晶工の不名誉では無い。


「イルアン、あれ!」


 大樹の真西まであと少しと言うところで、森の奥を警戒していたセテの背後から声が上がった。リアネスの指先を辿ると、北側の泉の中、先端が水上に出ている水晶に目が留まった。近くを細い根が通っている。


「でかした。十分狙える位置だ。」


 少し泳ぐことになるが、それも数歩分の距離だ。イルアンとリアネスが小躍りしているのを尻目に、セテはじっと水面を見つめていた。


「ねぇ、なんで島の上には水晶が残っていないのかしら。」


 イルアンが、応じて顎に手を当てる。


「ううん、あの大熊が竜脈の力を得るために、食べてしまったとか?」

「それは、体に悪そうね。」


 セテはそう言って皮肉っぽく笑おうとしたが、はたと動きを止めて考え込むような顔を見せた。


「セテ?」

「ああ、ごめんなさい。地表の水晶を採りつくしたのがあの大熊なら、いま私たちが狙っている水晶の場所くらいなら、ざぶざぶ入って採ってしまいそうだなって。でも、そうはなっていないわ。あの大熊でないなら、誰が水晶を採りつくしたのかしら。島の上に立ち入ることができて、ある程度深い場所には足が届かない。そんな生き物だと、辻褄が合うのだけど。」


 リアネスがはっと顔を上げて、セテと目を見合わせる。


「一昨日のねずみ達、胃袋の中に石を詰めていたわ。餓えて狂ってしまったのかと思っていたけれど。」


 イルアンは、ああ、と声を漏らして目元に手を当てた。


「そう言うことか。」

「ええ、リアネスの想像通りだと思うわ。」


 ねずみ達は水晶を飲み込むことで、竜脈の力が得られることに気づいたのだ。だがその結果、熊に目を付けられ、群れを支配されてしまった。


「熊はねずみに竜脈の力を宿した個体を捧げさせて、更に強くなる。ねずみ達からしたら、悪夢の繰り返しだったでしょう。」


 そう考えると辻褄が合うのよ。セテはそう言って仮説を締めた。


(どうしてねずみ達は水晶を飲み込むほど、追い詰められていたんだ?竜脈が曲げられているわけでも無いのに?)


 一瞬イルアンの心によぎった疑問は、リアネスの声にかき消されて、以後長く忘れ去られることになる。


「じゃあ、濡れるのが嫌いだから大熊は水の中まで追って来ない、なんてことは期待できないのね。」

「…そうなるな。追いかけて来ると思っていたほうが良い。」


 イルアンは吹っ切れたように顔を上げて、枝で地面に絵を描きながら作戦を微修正した。

 目指す水晶とそれに沿う根、そしてそこから泉の外縁に向かう根の道を確かめる。最短距離で森に逃げ込むなら、北だ。すなわち、おとり役のセテは南側へ熊を惹き付け、リアネスはこの位置、西で待機。


「セテの陽動が始まった時点から、作戦開始だ。できるだけ水晶に忍び寄っておくから、今から半刻は待ってから始めてくれ。もしも大熊がセテを追い続けるようなことがあれば、森の中を引きまわして欲しい。あの体格だ、森の中でも俺たちより速く動けるなんてことは無いだろう。」


 硬い表情で頷いたセテが、弓を持って立ち上がった。


「幸運を。」


 そう言って軽く手を振ると、薬師は足音を消して南の方へと戻って行った。

 セテの後ろ姿が見えなくなってしまうと、イルアンは息を吸い込んで胸に溜め、背筋を伸ばして目を閉じた。


「もしかして、怖気づいちゃったの?」


 リアネスが、愚かなふりをして問いを出してくる。この少女なりに気を遣っているのが判って、イルアンは息を吐きながら笑った。


「相手が思いのほか速かったら、俺は食われてしまう。それは怖い。」

「その時は私が助ける、でしょ?」


 覗き込んでくる健気な碧眼に、イルアンは「そうだな」と強がって見せた。右腕に左手を軽く添えて、震えを抑え込む。


「頼りにしているよ。」


 そう言い残して、イルアンは北の森へと紛れて行った。


「さて、私も。」


 ひとり残されたリアネスは、見繕っておいた大岩の上に風と光の水晶を並べ、大樹を見据える砲台とした。


「これを使うときは、数拍の余裕もないはずだわ。」


 効果をある程度制御できる風水晶を先に使うつもりだが、大熊は突風に見向きもしないかも知れない。そうしたら、すぐに光水晶の出番だ。イルアンには光水晶の力を開放するときには布をかぶせて光を閉じ込めるよう言われているが、風で立ち止まらないような相手の注意を、今さら水晶の破裂音だけで引けるとも思えない。


「これで、良し。」


 大樹の方から回り込んで、石が並んだ砲台を確かめる。光水晶には布を掛けているが、それぞれ少しずつ隙間が空いており、ここから光が放射されれば大樹の側へ光が放射されるようになっている。


 これで、大熊の目をくらましてやろう。


「私が、イルアンを、セテを助けるんだ。」


 小勇者リアネスは、命がけで水晶を確保してくれようとしている二人を支え、助けなければならない。

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