第一大陸編 序
長編です。
読んでいただけますと幸いです。
北から吹きつける風に乗って、威圧的な男の声が運ばれてくる。
「次の奴からは、こっちだ!」
三隻あるうち、一番左の船に向かっていた列が、うねるように真ん中の船へと仕向け先を変える。騒々しい男の横を通り過ぎたところで、少年の運命共同体が決まった。両脇の二隻よりひと回り大きい、古ぼけた二段櫂船。だが、
(当たりを引いた)
舳先には三隻の中で唯一、魔除けと思しき水晶が埋め込まれている。取りつけられて久しいのか、あるいは使い古しを取り付けたのか。その濁り具合から既に力を失っているのは明らかであったが、最も生存率が高い船であることの証左にはなっている。
船縁から顔を出した連絡鳥が、グワァと鳴いた。あいつが飛ぶのは、目的地に着いた時か、船が沈むときのどちらかだ。
(必ず、生きて戻る。戻ってやるぞ。)
行列が詰め込まれたのは、薄明りしかない大部屋だった。錨が上がる音が聞こえて、指示されるがままに櫂を漕ぎ始めた。
ああ、胃が痛い。
少年は、くり返し左手を腹に強く押し付けた。
互いの大陸から毎年出航しているはずの連絡船は、しかし十年も到着の報せを聞いていない。第一大陸側から本当に出航しているのかを確かめる術も無いが、少なくとも第十二大陸側からは、こうして毎年囚人たちが集められ、海へ送り出されている。
もし、あちらからも、毎年連絡船が出ているとしたら。
もし、こちらからも、滅多にあちらに着いていないとしたら。
噂に聞く海の巨獣にすべて飲まれてしまっているとしたら。
身震いを抑えようと両の手に力を込める。
(最初の嵐が、勝負だ。)
船酔いで倒れる者が続出する、その混乱に乗じて、文字通りの腹案を実行に移そう。
※
果たして少年の策は奏功し、およそ十日を掛けて連絡船の乗組員たちは第一大陸の土を踏んだ。聞けば、第十二大陸からの連絡船が到着するのは実に五年ぶりだという。
その数年に一度の奇跡も、もう六年も前の話だ。当時十二歳だった少年、イルアンは、今年で十七になる。




