ミネルヴァ様、ご到着
7月中旬、ミネルヴァ様が、いや、リーン様はともかく御祖父様までやって来た。
「いやあ、メリッサに会いたくてな。うん?婿殿、どうした。」
「あいや、本当に自由だなと思いまして。」
「引退したのだからな。老い先も短いし。」
「とてもそうには見えません。むしろ、私より元気です。」
「とは言うものの、もう78だぞ。」
「御祖父様には100まで、お元気でいていただきたいです。」
「おう、そう言ってくれるのはアーニャだけだぞ。」
「お久しぶりです。お姉様、お菓子のおねえちゃん。」
「私も来ちゃいました。お姉ちゃん、お菓子の聖女様。」
「まあ、リーン。もうすぐデビュタントなのですから、そろそろミネルヴァを見習いなさい。」
「もうちょっとだけ、いいでしょう。お姉様。」
「仕方無いですね。ミネルヴァの正式婚約発表直後にリーンのデビューです。ここにいる間は構いませんが、本番はしっかりやるのですよ。」
「はーい!」
「ではお姉様、早速、フランたちに会ってまいります!」
「おう、そうじゃ婿殿、はよう案内せよ。」
「御祖父様だけは、少々お話がございます。」
「うん?儂もメリッサに会いたいのだ。手短にな。」
「はい、実は数日後、ここにエルリッヒ侯爵家のご嫡男アルフレート様が、当家の視察のため、ご逗留されます。」
「ほう、侯爵家の次期当主と目されている者か。隣領の視察とは感心だな。」
「実は侯爵様から、将来、後見人を頼まれておりまして。」
「うむ、でかした。今の当主は腹が読めぬが、次期当主を婿殿が若いうちから手なずけてくれると有り難い。」
「そこで御祖父様、せっかくここにリーンが来ております。どうせなら、さらに一押ししたいと考えております。」
「ほう、リ-ンはいざという時の切り札として、まだ、取っておいたのだが、エルリッヒなら申し分ないな。東部はおろか、北部の三分の一を束ねる大家だ。我が派閥に引き入れられたらその影響は計り知れぬが、できるか?」
「はい、必ずや成してみせますわ。向こうにも十分メリットのある話です。公爵家と隣接する辺境伯家の後ろ盾を示せば、跡目は決定づけられます。」
「そうだな。ひっくり返せるのは陛下以外におらぬほど強力ではあるが、あそこは陛下とは疎遠。諸侯への締め付けが強化されつつある中で生き残りを考えるなら、我らに近づいた方が良いのは明らかだからな。よい。アーニャよ、上手くやれ。」
やっぱり、本物は、怖い・・・




