事件発生
私は突然、後頭部に痛みが走り、振り返ります。
「殿下、何をなさるのですか?」
「こうするんだよ!」
殿下が殴りかかってきます。すかさず避けるのですが・・・
「おい、アナスタシア!私の意志に背いて歯向かうつもりか!そんなこと、お前の立場で許されると思っているのか?」
「いえ、申し訳ございませんでした。」
「そうだ。お前はいつも俺を馬鹿にして、見下している。これはそれに対する罰だ。今からお前に誰が一番偉いか、誰に従うべきかを教えてやる。そこに跪け、そして俺に謝罪しろ。」
「はい。殿下、今まで数々の無礼を働きましたこと。深くお詫び致します。」
「額を地面につけろ!」
「はい。」
頭を踏みつけられます。一体、何の事で殿下がこれほどお怒りなのか、私には分かりませんでしたが、きっと私に至らない事があるのだと思い、誠心誠意、謝罪します。
「顔を上げろ。」
「はい。」
ガン!と殿下の足で顔を蹴られてしまいました。
為す術無く倒れたところを馬乗りにされ、さんざんに殴られます。
何度も謝ったのですが、止む気配はありません。
そのうち、殿下は立ち上がり、何度も蹴りました。
私は痛みに耐えながら、ただ時間が過ぎるのを待つだけです。
あっ、今、手に鈍い音と共に激痛が走りました。
それから頭といい、背中といい、足といい、散々に足蹴にされ続け、どの位の時間が経ったのでしょう。
殿下は気がお済みになったのか、「このことは絶対に、誰にもいうなよ!」とおっしゃって、足早に去っていかれました。
私も何とか立ち上がろうとしたのですが、痛みで思うに任せません。
「ああ、このような格好では、アインツホーフェン先生に叱られてしまいますね。」
困りました。次の授業は特に厳しい礼法の時間です。
遅れるなどもっての外ですが、どうやら誰かの助けをいただかないと、歩くのもままならないようです。
そして、何故だか分かりませんが、止めどなく涙が流れます。
本当にこれは、今でも理由が分かりません。
私は、うつぶせに倒れたまま、誰かが来てくれるのを待ちます。
この日、私は土の味と血の味と、胸からこみ上げてくる何とも言えないものの味を知りました。
この時は、私が何かとんでもない失態を犯したのだろうな、とか、皆様方に大変なご迷惑をお掛けすることになってしまったな、とか、激しい後悔と痛みが全身を覆っているような感じでした。




