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リンツ伝  作者: レベル低下中
第三章 家族編
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事件発生

 私は突然、後頭部に痛みが走り、振り返ります。


「殿下、何をなさるのですか?」

「こうするんだよ!」

 殿下が殴りかかってきます。すかさず避けるのですが・・・


「おい、アナスタシア!私の意志に背いて歯向かうつもりか!そんなこと、お前の立場で許されると思っているのか?」

「いえ、申し訳ございませんでした。」

「そうだ。お前はいつも俺を馬鹿にして、見下している。これはそれに対する罰だ。今からお前に誰が一番偉いか、誰に従うべきかを教えてやる。そこに跪け、そして俺に謝罪しろ。」

「はい。殿下、今まで数々の無礼を働きましたこと。深くお詫び致します。」

「額を地面につけろ!」

「はい。」


 頭を踏みつけられます。一体、何の事で殿下がこれほどお怒りなのか、私には分かりませんでしたが、きっと私に至らない事があるのだと思い、誠心誠意、謝罪します。


「顔を上げろ。」

「はい。」


 ガン!と殿下の足で顔を蹴られてしまいました。

 為す術無く倒れたところを馬乗りにされ、さんざんに殴られます。

 何度も謝ったのですが、止む気配はありません。


 そのうち、殿下は立ち上がり、何度も蹴りました。

 私は痛みに耐えながら、ただ時間が過ぎるのを待つだけです。

 あっ、今、手に鈍い音と共に激痛が走りました。


 それから頭といい、背中といい、足といい、散々に足蹴にされ続け、どの位の時間が経ったのでしょう。

 殿下は気がお済みになったのか、「このことは絶対に、誰にもいうなよ!」とおっしゃって、足早に去っていかれました。

 私も何とか立ち上がろうとしたのですが、痛みで思うに任せません。


「ああ、このような格好では、アインツホーフェン先生に叱られてしまいますね。」


 困りました。次の授業は特に厳しい礼法の時間です。

 遅れるなどもっての外ですが、どうやら誰かの助けをいただかないと、歩くのもままならないようです。

 そして、何故だか分かりませんが、止めどなく涙が流れます。

 本当にこれは、今でも理由が分かりません。


 私は、うつぶせに倒れたまま、誰かが来てくれるのを待ちます。

 この日、私は土の味と血の味と、胸からこみ上げてくる何とも言えないものの味を知りました。


 この時は、私が何かとんでもない失態を犯したのだろうな、とか、皆様方に大変なご迷惑をお掛けすることになってしまったな、とか、激しい後悔と痛みが全身を覆っているような感じでした。


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