そうだ!忘れてた
戦いは終わった。今回も帝国軍はごく僅かな死傷者しか出さなかった。
いや、無傷と言っても良いレベルである。
戦争もごく短期間で終結したが、これは銃や大砲による圧倒的な火力に加え、サントス人のウェルネスに対する反感がこちらに味方したものだ。
そして何より、アマーリア殿下のお陰で、こちらが占領統治を一切行う必要がなかったからである。
後は帰国するだけであり、既に帰国第一陣は出港している。
だが、帰国で揉めている人がここに・・・
「叔父さん、ここに残るって・・・」
「エル、私のブリギッテと離れる事はできないんだ。」
「いや、お弟子さんとかコジマさんとか、いろいろあるでしょ!」
「エルハバード殿、私もロデオを見つけたのです。人生をやり直すことを是非、お認めいただきたいのです。」
「大公様もよろしいんですか?一時の心の迷いとか、そういうのではないのですか?」
「そんなことはない!確かに私は一度間違えて、あのような男と契りを結んでしまったが、今は違う、今なら分かる。ジョルジュ様こそ私の全てだ!」
「エルハバード卿、二人もこう言っているのだ、諦めよ。」
「殿下まで・・・」
「そうだよ、国を遠く離れて戦いに身を投じるなんて、生半可な覚悟じゃあできないよ。ここは快く送り出すのがいいんじゃあないかな。」
「お義兄様まで・・・しかし、よろしいのですか?叔父さんは政治経験ゼロですし、何の役にも立ちませんよ。」
「エル、ちょっと酷すぎないか?」
「叔父さんも目を覚まして下さい。サントスはこれから非常に大変な時期を迎えます。しかもアマーリア様はこの国の責任者です。それを伴侶として支えるのは、とても大変なことで、強い覚悟が必要なことなんです。」
「確かに私は何も出来ない。しかし、彼女を全力で支える。」
「私もジョルジュ様と共に、この国をこれまで以上に発展させて見せます。それに、ジョルジュ様に政治を行っていただくといったことは考えておりません。今までどおり、優れた作品を世に生み出し続けていただければ、それで良いのです。」
「はあ、分かりました。それで、お弟子さんはどうするのです。」
「私はこの地にスタジオ・サントスを開設し、新たに弟子を取る。それまでの間、スーディルの弟子達はこちらで手伝ってもらう。その後に同じ道を歩むか、別のスタジオになるかは、今決めなくてもいいと思う。」
「ところでエルハバード君、私の弟もサントスに来させていいだろうか?」
「ええっ?よりによってこのタイミングで?」
「メンフィスだって、全く違う空気を吸えば、違った成長を見せるかと思ってね。」
「お義兄様、随分思い切ったことしますねえ・・・」
「エルハバード君も思い切ってみたら?」
「叔父さん、とにかく閣下を大切にして下さいね。」
「ああ、エルに負けないよう、頑張るよ。」




