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リンツ伝  作者: レベル低下中
第三章 家族編
723/1781

逃亡先

 船は、沖合航路を目指し、南に進む。


「会長、先ほどは済まなかった。危急の用件のため、キツい言葉を使ってしまった。」

「いえ、殿下。大変お労しいことと存じまする。」

「まあ、力なく国を治めることができなかった私の不徳が、全ての原因よ。我ながら情けない。」


「ところで、これからいずこへ参られるおつもりで。」

「港はどこにある。お恥ずかしながら、そういうことはサッパリなのでな。」

「東に行けば、ウェルネスのケンポール、ここが約2日、トラスタタル連邦のデマ港まで10日、タージル王国のファネマ港まで12日といったところです。」


「西は?」

「商業ギルド港なら2日弱、グラーツ帝国のダンケルク港なら約14日といったところでしょうか。」

「閣下、いかがいたしましょう。」

「西へ向かおう。」

「しかし、グラーツ帝国は敵に等しい国ですぞ。」


「だが、トラスタタルやタージルなど、名前しか聞いた事が無いような国だ。もちろんウェルネスと国境を接している訳ではない。宗教すら神聖教でないと聞く。そのような国に行っても意味が無い。さらに東のザゴル帝国は強大だが、あまりに遠い。行っても再起を図る希望はない。それなら西の方がまだましだ。グラーツがだめでもエル=ラーンに行けば、敵の敵は味方の理屈で、協力が得られる可能性がある。」


「確かに、薄い望みではございますが、かろうじて話は聞いてもらえるかも知れません。」

「我が国のような小国の行く末など、はなから望み薄なことくらい、分かっている。」

「では、グラーツのダンケルク港を目指すということで、指示を出しておきます。」


「姉上、私たちはこれから、どうなるのでしょうか。」

「ミレーア、心配は要らぬ。何があってもそなただけは守ってみせる。」

「そうではございません!姉上も一緒でないと何の意味もございません!」

「そうだな、分かった。そなたも許嫁を国元に置いてくることになって、さぞかし辛いであろう。ここには何も無いが、少し休むと良い。」

「はい・・・」


「閣下、ダンケルクの手前に、グラーツ領スーディルという小港があるようです。」

「チコ、そちらの方がダンケルクより近いのか?」

「はい、9日程度とのことです。」

「そうだな。そなたたちにも迷惑をかけ続ける訳にはいかぬ。そこまでで良い。」

「分かりました。」


「グラーツは大陸有数、今やエル=ラーンを大きく凌駕すると言われる大国ですが、はてさて、どのような所でしょう。」


「生きて出られれば御の字よ。」


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