逃亡先
船は、沖合航路を目指し、南に進む。
「会長、先ほどは済まなかった。危急の用件のため、キツい言葉を使ってしまった。」
「いえ、殿下。大変お労しいことと存じまする。」
「まあ、力なく国を治めることができなかった私の不徳が、全ての原因よ。我ながら情けない。」
「ところで、これからいずこへ参られるおつもりで。」
「港はどこにある。お恥ずかしながら、そういうことはサッパリなのでな。」
「東に行けば、ウェルネスのケンポール、ここが約2日、トラスタタル連邦のデマ港まで10日、タージル王国のファネマ港まで12日といったところです。」
「西は?」
「商業ギルド港なら2日弱、グラーツ帝国のダンケルク港なら約14日といったところでしょうか。」
「閣下、いかがいたしましょう。」
「西へ向かおう。」
「しかし、グラーツ帝国は敵に等しい国ですぞ。」
「だが、トラスタタルやタージルなど、名前しか聞いた事が無いような国だ。もちろんウェルネスと国境を接している訳ではない。宗教すら神聖教でないと聞く。そのような国に行っても意味が無い。さらに東のザゴル帝国は強大だが、あまりに遠い。行っても再起を図る希望はない。それなら西の方がまだましだ。グラーツがだめでもエル=ラーンに行けば、敵の敵は味方の理屈で、協力が得られる可能性がある。」
「確かに、薄い望みではございますが、かろうじて話は聞いてもらえるかも知れません。」
「我が国のような小国の行く末など、はなから望み薄なことくらい、分かっている。」
「では、グラーツのダンケルク港を目指すということで、指示を出しておきます。」
「姉上、私たちはこれから、どうなるのでしょうか。」
「ミレーア、心配は要らぬ。何があってもそなただけは守ってみせる。」
「そうではございません!姉上も一緒でないと何の意味もございません!」
「そうだな、分かった。そなたも許嫁を国元に置いてくることになって、さぞかし辛いであろう。ここには何も無いが、少し休むと良い。」
「はい・・・」
「閣下、ダンケルクの手前に、グラーツ領スーディルという小港があるようです。」
「チコ、そちらの方がダンケルクより近いのか?」
「はい、9日程度とのことです。」
「そうだな。そなたたちにも迷惑をかけ続ける訳にはいかぬ。そこまでで良い。」
「分かりました。」
「グラーツは大陸有数、今やエル=ラーンを大きく凌駕すると言われる大国ですが、はてさて、どのような所でしょう。」
「生きて出られれば御の字よ。」




