父、帝都に向かう
帝国歴244年9月
この日、久しぶりに帰宅した父に書斎へと呼ばれ、セバスに連れられて向かう。
「うむ、来たか。」
「はい、父上におかれましては帝都でのお勤め、お疲れ様でした。また、無事のご帰還、大変喜ばしゅうございます。」
「まあまあ立派に挨拶できるようになったな。これなら、帝都に出てもそれほど恥ずかしくはあるまい。」
「帝都とおっしゃいますと?」
「突然だが、今度儂が第三近衛騎士団長を拝命することになった。これからは帝都に住むことになる。早急に赴任したいので、お前も準備しておくように。」
これは予想外。
父は、リンツ家を窮状から救うため、中央で猟官活動を行っていることは知っていたが、まさか、田舎貴族に職など無いだろうと高をくくっていたらこれだよ。
「旦那様、領地のことについてはいかがなりましょうや。」
「代官になる人材も金もない。当面はセバス、お前に任せる。」
「しかしながら旦那様、帝都の要職に就くとなれば領地の事にはほとんど関わることができなくなります。領主不在では何かと滞ることが容易に考えられますが。」
「騎士団長ともなればそれなりの給金が出る。当家の債務返済を進めつつ、もし給金で足りない場合は、領地を他家に売却することも考えておる。」
言いやがったよこのク○親父。
「旦那様、差し出がましい事を承知の上でご意見することをお許しください。確かに、帝都で職を得れば、晴れて中央貴族の仲間入りですが、領地を持たぬ貴族など、役人と何も変わりありませんし、騎士団長は世襲ではありません。領地がなければ・・・」
「そこはエルハバード次第だ。儂は儂の道を開いた。エルハバードが同じように中央で職を得られないなら、それまでだ。」
正念場は突然やってくる。しかし、ここで腹を括らないでどこで括る。
「父上、私は当面ここに残り、領地の経営を学びたいと存じます。是非試したいこともありますし、私も、自分の道は自身で開きたいと存じます。」
「子供の妄想で何とかなるほど世の中甘くないぞ。」
確かに普通に考えれば私は子供だし、父の言う通り、取りあえず借金問題の先延ばしが現実的な落とし所というのは一理ある。
しかし、騎士を目指すとなると、この世界の生活水準を上げてお気楽スローライフを送ることはできなくなる。
第一、理科教諭に過ぎない私が軍人なんかになれるはずがない。
「ここには執事のセバスチャンもおります。それに、領地を失うなどあまりに体面が悪すぎます。」
「何?・・・フン、お主も言うようになったのう。まあ良い、では5年待つ。そうすれば、そちも立派な成人だ。それまでに、せめて債務返済の道筋くらいは立てて見せよ。セバス、子供の出来ることなどたかが知れておる。お前が手伝ってやれ。出来なかった時は騎士団で叩き直してやるからそのつもりで励め。」
「はっ!身命を賭して励みます。」
ある意味、リンツ家最大の危機を脱した。
そして11月4日、父は帝都に旅立った。




