建国記念パレード
帝国歴255年6月25日
本日は帝国建国祭。
255年前に帝政が発布されたことを記念するこの国最大の祝日だ。
通りは綺麗に飾り付けられ、多くの市民が沿道に詰めかけている。
あの、各諸侯の軍旗が吊された万国旗もどきもはためいている。
陸軍の兵士が部隊別にがパレードを行い、それを中央軍、ボーエン公爵家騎士団、リンツ辺境伯家騎士団の軍楽隊が行進曲を演奏しながら先導している。
行進は市内を西から東進し、帝城正門前の中央広場で軍と軍楽隊は別れる。
中央広場からは3軍楽隊はそれぞれの曲から、グラーツ帝国行進曲に演奏を変えながらマーチングドリルを披露する。
そして、曲のトリオに入ると、新しく制定された国歌を貴族学校生徒やサクラたちが歌う。
その中を楽隊が正門方向に歩き、曲の最後に全員でSieg Heil Kaiserと叫び、演奏が終了する。
それと同時に南大通りに設置されていた着火台から打ち上げられていた花火が轟音とともに炸裂する。
さらに、広場と中央通りに配置されたくす玉が割られ、紙吹雪が風に舞う。
ここで詰めかけた群衆から、大きな歓声が上がる。
衛兵の制止により、広場がサッと静まった後に、城門前に並んだ隊員による儀仗が始まると、陛下が立ち上がり、正門上の演壇に進み、国民に対する挨拶を行う。
「本日は、栄えある我が帝国が歴史に名乗りを上げた尊い日である。そして今年は、建国以来の宿願であったマルチン=ユグノーを滅ぼし、大グラーツ主義が実現された記念の年である。皆もかつてない繁栄を手にした帝国の姿を実感したことであろう。今日の日を讃えよ、そして長く心に刻め、そして我らとともにこれからも歩め!」
ここで再度花火が打ちあがり、民衆の歓声を浴びながら皇帝は手を振る。
その後も、各国の王族や全権大使が集う中、式典は粛々と行われた。
その後、夕食を兼ねた大晩餐会が行われ、夜の花火で一時中断した後、パーティー後半はダンス会となり、盛会のうちに建国祭は終わった。
終わって密かに帰ろうとしたが、陛下の使いに呼び止められ、脱出失敗。
「でかしたぞ、エルハバード卿。今日の事は各国の来賓から、それぞれの国に知らされるだろう。これが我が国の威光を他国に響かせることになる。」
「光栄至極に存じます。」
「整然と行進する軍、これまで誰も聞いた事の無いような音楽、民衆の歌、儀仗、吹き乱れる色紙、花火。どれも我が国にしかないものだ。」
「ええ、国力と文明、技術の高さを評価いただくことが目的ですね。」
「ああ、それだな。それにそちの存在は大きい。そちと同年代の者は、まだほとんど世に出ておらんが、それでも、そちが世代を代表する者であることは分かる。」
「それは買いかぶりではございませんか?」
「謙遜か、それとも何か企んでおるか?」
「滅相もございません。企む理由も熱意もありませんが。」
「ハッハッハ。分かっておる。何故だかはまだ分からんが、そちには年齢にそぐわぬ物ぐささと合理性が感じられる。」
「私も何故か、乗り気で無いものに対しての熱意の無さは自覚しております。」
「8月10日だ。それだけは覚えておけ。」




