アナスタシア、一歩も退かず
審問官に構わず、ローサを退出させる。
「では審問官。用件をどうぞ。」
「つれないものよ。まあよい。では、今回訪問したのは、エルハバード・リンツの罪状を調べ、これを報告し、処分を決定すること。罪状については既に明らかになっているとはいえ、ただの伝聞で決定する訳にはいかんからな。そして結果次第では、破門や処刑を含む厳しい処罰が科されることになる。分かるな。」
「我が夫がそのような、恐ろしい事ですわ。」
「まあ、奥方が驚くのも無理はない。現在までに判明している罪は、まず、魔女裁判を妨害したる罪、次に司教ら関係者を不当に逮捕し、神聖教を弾圧したる罪、そして領民をけしかけて教会を焼き討ちした罪、いずれも死罪相当の重いものである。」
「なるほど。それがそちらの主張ですか。」
「ええ、しかし、私には、この件に関する全権が委任されており、大罪人エルハバード・リンツの生殺与奪の権も、私が握っているのですよ。」
「そうですか。」
「ええ、奥方にとっても由々しき事態では?」
「何か言いたいことがあるなら、はっきりどうぞ。」
「もう少し可愛げがあっても良いと思いますがな。」
「我が夫は罪など犯しておりませんから。」
「ほう、自信がおありなようで。」
「ええ、まず魔女裁判ですが、ロスリー司教リカルド・ガットゥーゾ自らが過ちを認めており、裁判自体が無効。そして彼らは我が夫への侮辱、領民扇動、公文書虚偽申請、器物損壊の罪で逮捕されたもの。いずれも宗教弾圧には該当しません。さらに焼き討ちは、あなた方の行った不当な裁判の結果であり、当家は一切あずかり知らぬ事。それ以外に語ることはありません。」
「ほう、しかしそれは、そちらの一方的な主張に過ぎない。」
「そちらの主張も一方的ではないですか。しかも最初から帝国貴族に対して敬称も付けず、加えて大罪人呼ばわりするなど、本来であれば門前払いでも何らおかしくない狼藉です。」
「しかし、起こった事象から罪は明らか。言い逃れはできませんよ。」
「そもそも言い逃れなどする気は一切ありません。事実を申したまで。」
「分からんお人だなあ。先ほど、私に全権があると申したはずです。つまり、結果は私次第なのですよ。」
「それは聞きました。」
「ですから、主がここにいないということは、奥方の行動次第、ということです。」
「何の事でしょう。」
「奥方、あなたはもう少し利口に振る舞えるはずだ。」
「審問官。言いたいことがあるなら単刀直入に、特に大した話がないのであれば、お引き取りを。」




