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リンツ伝  作者: レベル低下中
第三章 家族編
622/1781

異端審問官

帝国歴255年6月


 私の名は、ガブリエリ・チッコリーニ。

 栄えあるサン=マルコ皇国の神聖教総本山にて教皇より大司教を賜る者。

 そして今回、神聖教に不敬を働いた大罪人、グラーツ帝国リンツ辺境伯領の領主代行、エルハバード・リンツの異端審問を命ぜられし者である。


その罪状は、教会の古くからの権利である、魔女狩りの邪魔をした事、つまり不可侵たる教会の権利侵害の罪と、ロスリー教区司教ら4名の不当逮捕・監禁、つまり宗教弾圧に対する罪である。


 罪状は既に明らかであり、破門は確実であるが、我ら神聖教は秩序と理性、慈悲に溢れる教団なれば、一応の手続きは踏む必要がある。

 その上で必要があれば、エルハバード・リンツを逮捕・連行し、あるいは大司教権限で処刑することも十分にあり得る状況である。

 つまり、私の任務は非常に重大なのである。


 先月初めに総本山を発ち、商業ギルド港経由でスーディルというリンツ領の港町に到着したが、ここで検疫などという迷信がかった儀礼のため、何と一週間も足止めを喰らうはめになった。

 のっけからこの地の異常さを垣間見た思いである。


 しかも、本国から連れて来た騎士たちは入国できないと、港に押しとどめられ、現地の騎士団と衝突した結果、4名が重症を負ってしまった。

 これだから未開の野蛮人どもは!


 お陰で護衛無しという、到底納得いかない状態になったが、しかし、現地の教会の協力により、何とか入国を果たし、ついに領都ロスリーの町に到着する。

 さあ、ここからが本番だ!


「こ、ここがロスリーの教会、です・・・」

「廃墟ではないか!」

「とにかく、現地の者を呼んで参ります。」


「何だ、ここでは紅茶すら出さんのか!」

「申し訳ございません、大司教様。実は、魔女裁判の容疑者が商店主の娘で、あれ以来、どの店でも何も売ってもらえないのです。おかげで朝早くから使用人が近隣の町に行き、食料などを手に入れておりますが、さすがに茶は入手できません。」

「ああ分かった。それでこれは一体、どういうことだ。」

「はい、ここの市民に焼き討ちされたものでございます。」


「神聖なる教会の焼き討ちなど、異教徒以外、領主の企てとしか考えられん。今から辺境伯の屋敷に行く。誰か案内せよ。」

「はい。畏まりました。」

「それと、ここには辺境の聖女がおったな。」

「はい。ここの領主の第二夫人です。若く、大変見目麗しい方です。」

「ほう、それは楽しみだな。」


 こうして、異端審問官ガブリエリ・チッコリーニは屋敷に向かう。


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