ローサと難しい話をする
さて、その日の夜。
「ご主人様、少しよろしいでしょうか?」
「いいよ、でも疲れてるなら無理しちゃダメだよ。」
「大丈夫です。それより、その・・・いろいろと分からなくなりまして。」
「難しい話し?」
「はい。悪魔や魔女はいて、裁判を行うことは正しくて、煮えた油で魔女を退治した逸話もございます。なのに、司教様は間違われたと。正直、何を信じたら良いか分からなくなり、もう、どうしようかと・・・」
「そうだね。教典には確かに、魔女を捕らえて油で退治した逸話があるね。でも、教典にあるのはたった1回のエピソードだけだよ。その時はその方法で上手く行っただろうけど、いつもその方法を採るように、とは書いていないよね。」
「確かにそうです。上手く行く場合と、そうでない場合があるのですか?」
「それは私にも分からない。私だって魔女裁判なんて初めてだったからね。でも、今回は間違っていた。これだけは確かだ。」
「それでは、今までも間違っていたとか・・・」
「残念ながら、それは今となっては分からないよ。」
「そうでした。」
「前にも言ったことがあるけど、かつて黒死病は悪魔の仕業だと言われていたが、病原菌を発見した。あれは悪魔では無く、目に見えない小さな生き物だ。しかし、悪意を持ってそれをばらまく者がいれば、災厄を引き起こす悪魔と言えるのでは?」
「そういうことなのですね。」
「恐らく、教典の解読には、まだ多くの時間と知恵が必要なのだと思う。少なくとも、魔女を煮えた油で退治せよ、とは書かれていないし、曲解は危険だということじゃあないかな?」
「なるほど。いつぞやご主人様が言っておられた、神が間違っているのではなく、それを読む人が間違っているということなのですね。」
「多分、それで合ってると思うよ。」
「難しいのですね。」
「だからみんな、生涯を賭けて、正しい道を探している。」
「私も、もっと頑張らなくてはいけませんね。」
「ローサはよく頑張ってるよ。それに、今は無理しちゃいけない。」
「分かりました。また、迷った時は教えて下さい。」
「一緒に考えよう。そしたらきっと、それは幸せに繋がってる。」
「はい。やはり、ご主人様を選んで正解でした。」
「あれだけ断ったのに?」
「もう、意地悪です・・・」
騒動の後は、静かだ・・・




