辺境伯
父から手紙が来た。
陛下から論功行賞の謁見があるので、帝都に出てくるよう、要求する旨のものであった。
ただし、病気を理由にぶっちした。もちろん仮病である。
帝都が遠いということもあるが、いつも呼び出したい時に呼び出されている事が腹立たしい、というのが大きい。
父には断りを入れるとともに、ゴホーク家の男爵任命について伺いを立てた。
さて今回、マルチン=ユグノー王国は滅亡したが、マルチン家とユグノー家は特別に許され、領地は大幅に削られつつも、伯爵家として家名存続を認められた。
かつて、グラッフェン王国に抵抗したグデーリアン王家は現在も公爵家として存続しているが、現皇帝の性格を考えると、両家は幸運としか言いようがない。
ただし、同国に元からいた公爵や侯爵が同じく伯爵に格下げされていることを考えると、大きな屈辱を両家に与えたとも言える。
まあ、両家にダリアとマーリエの領有をそれぞれ認めたことが、せめてもの救いか。
3年前から続く一連の戦争の結果、この国の貴族は公爵4、侯爵5、伯爵34、子爵88、男爵424、准男爵41となった。
ちなみに、侯爵家は北部の2家が潰れた代わりにエルリッヒ家が昇格し、伯爵家は12増えた代わりに宮中伯が廃止された。
ちなみに、リンツ男爵家は指定354番目、序列108番目の男爵家である。
さて、そのつもりで論功行賞については、すっかり終わったものと思っていたが、父から当家が辺境伯に任じられた事が伝えられた。
どうやらあの軍監殿、ちゃんと功績を報告したらしい。
あと、一等黄金双頭鷲勲章という物をくれたそうだ。
父ですらもらっていない物らしいが、心底どうでもいい。
「旦那様、おめでとうございます。」
「辺境伯って、エル=ラーンに確かあったよね。」
「はい、現在2家ございますね。グラッフェン時代にボーエン家も辺境伯だった事がございます。」
「過去にはあったんだね。まあ、辺境には違いないけど・・・」
「いいえ、家格は侯爵家に並びます。多くの伯爵家とは、頭一つ抜きん出る存在です。」
「でも、侯爵ではなく辺境伯なんだね。」
「おそらく、エルリッヒ家への配慮と、東部の安定を考えての措置でしょう。貴族籍上はあくまで伯爵ですが、儀礼上は侯爵の末席に位置します。」
「結構大層なものなのね・・・」
「やはり旦那様は凄いです。過去にも子爵をお断りになられた事がございましたが、昇進など、何代に一度あるかどうかなのです。」
「陛下って、存外気前がいいんだね。」
「旦那様だけだと思います。」
まあ、父が名乗るんだけどね。




