エルハバード、領地を買う
さて、村長たちの帰った後の応接室。
「それで、フェネトとはどういう土地で?」
「うむ、まずアイヒ川じゃが、そこを流れる本流の他に、エムス川に至る運河があることは知っておろう。」
「はい、中東部からローゼンブルク領を通るものですね。」
「あれは儂が子供の頃に出来たものじゃが、運河とは表向きでの、エムスはテーレ川の支流であまりに洪水が多かったので、当時のシーラッハ家とバーゲン家が中心となって作った放水路というのが真相じゃ。帝都が洪水被害に遭うよりはと、容赦なくこちらに流してきてのう。それによって、ただでさえ洪水の多かったアイヒ川下流は更に被害を被ることになったのじゃ。それを防ぐために我らが堤防を作り、彼らは更に追い詰められた。まあ、そういうことよの。」
「フェネトに堤防は作れないのです?」
「地盤が軟弱でのう。それに、税収ゼロの土地に堤防を作れるほど、当家にも余裕はないのじゃ。」
「幸い、うちの方は人口も少なく、保全対象は少々の水田があるだけですので、ルート変更はしましょう。しかし、堤防を作らないということにはなりません。それで彼らが納得してくれるかどうか。」
「それでも、儂にもう少し資金があれば、堤防も不可能ではないのじゃが・・・」
「資金的な問題で解決するなら、当家がフェネトの堤防を請け負いますが。」
「あそこは捨て地同様の土地じゃぞ?何ならそちに譲っても良いが。」
「へっ?」
くれるって?領地を?
「ま、まあ、そうは言われましても、タダという訳にはまいりません。その、フェネトとはどのくらいの広さの土地なのでしょうか?」
「ゲオルグ、どのくらいじゃ。」
「はい、寄子の男爵家の領地と同程度と考えます。およそ40か50㎢かと。」
「かつて父はリンツ領を6000万ディリで売却しようと考えていたそうです。そのおよそ20分の1であれば300万。う~ん、これはあまりにも安いですね。では侯爵様、1億ディリではいかがでしょう。」
「へっ?いちおく?」
「大分頑張ったつもりですが、ダメでしょうか?」
「あんな二束三も・・・いや、あれは大変価値ある土地じゃ。」
師匠~!
「分かった、そなたにフェネトを譲ろうぞ。」
「あ、あの~考え直してもよろしいでしょうか?」
「な、何と!エルハバード殿、買うよな、な、買うと言ってくれ~!」
また負けそうです・・・




