以心伝心
結局、謁見そのものは問題なく終わった。
ただし、国歌の歌詞が何度もダメ出しくらったせいで、帝都に2週間も滞在することになり、ロスリーには4月12日に帰り着いた。
「こうして落ち着くと、やっと帰ってきたって実感するよ。」
「お疲れ様でした。無事お戻り下さり、とても安堵いたしました。」
「ありがとう、心配掛けたね。」
「はい、旦那様と私はまるでロデオとブリギッテのようです。まさに以心伝心でした。」
ルーデルさんはいるが、アーニャさんとローサはピッタリくっついて離れない。
「陛下のご用件はいかがでしたか。」
「うん、軍事的な支援について依頼があったね。兵器に関しては、公爵家と同じ性能のものを献上するように言われたけど、ちょっとご機嫌斜め程度で済んだよ。むしろ、アーニャさんが来ていないことにムッとしてた。」
「そうだったのですね。でも、私とはもう、お会いしたくないと思っておりました。」
「いや、会いたいのだと思うよ。まあ、そう簡単には会わせてあげないけどね。」
「ご主人様はやっぱり意地悪です。」
「そりゃあ、アーニャさんをあんな目に遭わせたんだから、当然だよね。」
「他には、どのような依頼があったのですか。」
「後は、軍艦建造への協力と軍楽隊、儀仗隊の創設に協力するよう、そうだ、アーニャさん。帝国国歌というものが今回作曲されて、楽譜を預かって来たんだけど、私では読めないからいつものヤツに書き換えて欲しいんだ。」
「ええ、明日にでも仕上げておきます。」
「ありがとう。それと皇后陛下から、星降る夜にの続編を書くように依頼された。」
「まあ、陛下も物語のファンなのですね。」
「うん、帝都でも話題になっているらしい。叔父さんもすっかり有名人だよ。」
「旦那様からもジョルジュ様に続編をお願いして下さい。」
「ご主人様、私からもお願いします。」
いや、えらい食いつくねえ・・・
「まあ、叔父さんには伝えておくよ。」
「しかし、陛下の用件がその程度で良かったですね。」
不意にアーニャさんの腕に力が込められた。
「そうだね。でも正直、これだけなら手紙でいい内容だったね。」
「やはり、奥方様にお会いしたかったということでしょうか。」
「そうだと思う。使者が用件を明かせなかったのも、きっとアーニャさんを名指しで呼び付けられないためだと思うよ。でも、子育て中だと事情は説明しているので、当分はそのような要求はしてこないと思うよ。」
後日、ルーデルさんから私が不在時の話を聞いて、一瞬、気が遠くなった。
アーニャさん、以心伝心、見事に失敗してるからね!




