お義母様に託される
向こうではまだキャーキャーやっているが、私は上手く脱出して応接室で休んでいる。
「あら、婿殿、ここにおられたのですね。」
「ああ、お義母様。フランシスとは十分遊びましたか?」
「ええ、赤ん坊とふれ合うのは、いつもいいものです。それが初孫ともなれば、尚更です。」
「それは良かったです。フランシスもアーニャさんも、とても喜んでいることでしょう。」
「ありがとう。あの子が嬉しそうにフランシスを抱く姿を見て、私まで幸せな気持ちになりました。あの子は、本当に苦労してきましたから。」
「そうですね。苦労人だというのは分かります。」
「ええ、あの子は不幸にして、馬鹿殿下の婚約者にされてしまったことで、家族と引き離され、多くの時間を失い、しなくてもいい苦難を強いられ、生涯幸せを掴めないのではないかと心配していました。私も、母としていろいろしてあげたかったことを、結局、何もできずに後悔ばかりしていました。でも、ここに来て、あの子の本当の笑顔を見ることが出来て、長年抱えてきた悲しみが癒えた気がします。あなたには、本当に感謝しておりますのよ。」
「ありがとうございます。彼女は今、安寧な生活を手にしていると思っております。家人とも非常に良い関係を構築しておりますし、母として、妻として、領地を治める良き指導者として、その持てる能力を遺憾なく発揮しております。そして、これからも、そうあり続けてくれるものと確信しております。」
「ええ、あなたのような方に出会える幸運は、そうそうあるものではありません。苦労は掛けてしまいましたが、受けた不幸の分は、良いことが返ってきたのだと思います。」
「そう言っていただけると、光栄です。」
「本当にありがとう。娘の事、あなたに託します。末永く、よろしくお願いします。」
「はい、誓って。」
本当にいい母だなと思う。
どっかの誰かさんとは違って・・・
「でも、この領地は本当にいい所ね。季候もいいし、食事も美味しいし、生活は便利で快適、町は綺麗で清潔、欲しい物は何でもあって、とても楽しい。」
「帝都の方にそう言っていただけると、嬉しいです。」
「ここと比べれば、帝都なんて大きなゴミ捨て場ね。最初は心配もしていたのです。何しろ東部の国境沿いですから。国内でも辺境と呼ばれるのは東部だけですし、ここに来る途中も、だんだん物悲しい風景になっていくし。かなり娘の安否を懸念しましたのよ。」
「ハハハ、皆そう言います。確かに東部の大部分は、お義母様の言われるとおりです。」
「でも、ここは別天地です。私もここに住みたいくらいです。まあ、唯一の難点といえば、社交の場が無いことですわ。どんなに綺麗になっても、自慢できる場が無いのですもの。」
「どんなに発展しても、ここは地方ですので。」
「本当に惜しいわねえ。でも、誰にも知られたくないですわね。」
最後はお義母様らしくなって何より・・・




