もう一つの一周年
「ローサ、調子はどうだい?」
「はい、もうお腹がパンパンですね。とても大きく育ちました。」
「そうだね。ローサが頑張って大きくしたんだ。」
「少しは、その、お役に立っておりますでしょうか。」
「私にとっては、役に立っている以上の存在なんだけどね。それに、役に立っててもそうでなくても、側にいて欲しい。これは、私の切なる願いだよ。」
「嬉しく、とてもありがたいお言葉です。」
「そこで、少し早いけど結婚一周年を祝いたいと思ってね。」
「フフッ、ご主人様は本当に気が早いですね。昨日、奥方様の一周年をお祝いしたところですのに。」
「でも、もしかしたら出産と重なって、機会を逃すかも知れないからね。それに、どうしてもその前に、渡しておきたい物があったから。」
「ご主人様、また宝物が増えてしまいます。」
「そのうち部屋からあふれ出すと思うよ。はい、これ。」
「ありがとうございます。開けてもよろしいですか?」
「うん。今のローサに一番ピッタリのものだよ。」
「これは、飾杖です。」
飾杖とは神聖教の礼拝に使う杖である。
正式には錫杖と呼ばれるべき物だとは思うが、神官や僧侶の持っているアレである。
これが時代とともに変化し、上の飾りがロザリオ風に使われるようになったものだ。
ネックネスのように首から下げるものだが、下部には本当に杖を付加できるようになっている。
「毎日礼拝にも行ってるし、お守り代わりになるしね。」
「ありがとうございます。こんなに立派な・・・これは一生物です。」
「うん、親方に頼んで、かなり凝った意匠にしてもらったからね。」
「八角形それぞれに、水の神、天使様、こちらは大地の神・・・すごいです。司教様でもこれほどの物は持っておられないのではないでしょうか。」
「まあ、偉い人の持っている宝石ジャラジャラのものとは違うけどね。でもローサにこそ、こういうものは似合うと思うし、リンツ領一の金型職人渾身の作だ。ちなみに杖もあるんだ。後で渡すよ。」
「本当に、こんなに良い物を、ありがとうございます。実は私も、お渡ししたいものがあるのですが。」
「ローサから貰えるものなら何でも嬉しいよ。」
「これです。」
「これは、偉い人が剣に付けてる装飾用のチェーンだね。」
「はい、ご主人様の剣があまりにみすぼらしいので、ルッポさんにご相談したら、作って下さったのです。」
えっ?みんな親方に頼んでたの?
「昨日、アーニャさんに剣をもらったけど、きっとピッタリなんだろうなあ。」
今度、親方に会ったときの顔が目に浮かんで、ハズい・・・




