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リンツ伝  作者: レベル低下中
第三章 家族編
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夢を追う者

 そして、アスペル親子とのお菓子品評会の終わったある日・・・


「旦那様、少しお時間よろしいでしょうか。」

「ああ、ジョセフさんかい、いいよ。」

「あの、非常に申し上げにくいことなのですが、その、今度、独立したいと思いまして。」

「う~ん、そうか。前から言ってたよね。ついにこの時が来たのかあ。」


「あの、こんなにお世話になっておいて、裏切るような事を申してしまい、本当に申し訳ございません。このお屋敷で働かせていただいているだけで、料理人として最高の栄誉だというのに・・・」

「いや、まあ、すごく惜しい気持ちはあるよ。ジョセフは年いくつだい?」

「今年で41になりますが。」

「夢を追うならもう、あまりふんだんに時間があるとは言えないからね。応援するよ。」


 言うまでも無く、この時代は人生80年時代ではない。

 ロスリーに限っては、医療水準が高いかも知れないが、人々の意識は人生50年なのである。

 それに私もかつて夢を捨て、教師という現実を受け入れた経験から、彼を応援したいと心から思うのである。


「よろしいのですか。」

「もちろんだよ。それで、店の場所とか、具体的に何か決まってるの?」

「ロスリー郊外に小さな店でも持てれば、とは思っておりますが、まだです。」

「ああ、土地代高いもんね。じゃあ、ウチの所有地で良い所あるよ。」

「・・・あ、あの、そこまでしていただいては。」


「帝国銀行の南側の土地が遊んでる。今は銀行が適当に使ってるけど、あそこなら北側の入口は商店街、西側は中央通り、政庁や教会からも近いし、ここから200m以内だよ。」

「あそこは市内でも一等地です。とてもそんな所の土地なんて借りられません。」


「いらないよ。っていうか、帝国銀行からも借地料は取ってないよ。あれはあくまで企業誘致による街の振興を目的にしてるからね。ジョセフの店もそうだけど、街にそういう店や施設があることに意義があるんだ。」

「それは・・・大変有り難いお話です。」

「それに、うちも利用させてもらうし、これからも料理研究に協力もして欲しい。ついでにうちの製品を使ってくれると嬉しいなあ。」

「何から何まで、ありがとうございます。」


「じゃあ、明日早速、ロスリー土木商会の者と現地を見てみよう。それで建物の設計をすればいいよ。何なら、うちが建物を建ててもいい。」

「それは、いくらなんでも・・・」


「でも、うちの給料じゃあ、それほど元手もないんでしょ。その代わり、ちゃんと後継者を育てておいてね。ジョセフ一代限りじゃあダメだよ。」

「はい、ありがとうございます。このご恩、一生忘れません。」

「これからもよろしく、ジョセフ。値段さえ間違わなければ必ず成功するから。」

「はい。」


 セバスについでジョセフもか・・・


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