老兵は死なず
「いやあ、どの事業も順調そのものだし、言うことなしだね。」
「そうでございますなあ。特に若様がお戻りになってからは、さらに人材が充実しましたからなあ。」
「これで戦さえなければ、というところだね。」
「それで、こういう落ち着いた時だからこそ、ご相談したいことがございます。」
「うん、どんなこと?」
「はい、私ももう57才になりますので、年度末をもって引退したいと思います。」
「う~ん、そりゃあいつかは来るものとは思っていたけど、早すぎない?」
「いいえ、もう57です。孫もすぐに大きくなってしまいますし、老後の楽しみ、という所ですかな。」
「でも、セバスがいないとなると、痛手だな。」
「それも大丈夫です。ルーデルもその頃には1年になりますし、パウロも非常に優秀です。奥方様もおりますし、むしろ今でないと、却って私が老害になってしまいます。」
「もう少し、何とかならない?」
「若様、いずれは必ず来ることです。順調な時だからこそ、世代交代を進めておかないとなりません。」
「寂しくて耐えられそうにない・・・」
「ほほほ、別に近所に住んでおりますし、何かございましたら、お声を掛けていただければ、いつでも馳せ参じますぞ。」
「じゃあ、リンツ伯爵家顧問に就任してよ。」
「顧問ですか?私が?」
「いざというときの備えだよ。非常勤でいいし、給料も出すからさ。」
「まあ、給金はこれ以上、必要ございませんな。退職金もあるようですし。」
「いや、出す。それと週に一度くらいは出てきて欲しいな。お孫さんと遊んでるだけでいいから。ウチの子のお姉ちゃん代わりによろしく。」
「ほほほ、全く、若様は本当に・・・まあしかし、お仕えし甲斐がありましたぞ。」
「まだ半年はあるんだから、まだまだ働いてもらわないとね。」
「畏まりました。最後まで、お仕え致します。」
「でも、もう何年かは居てくれると思ったんだけどなあ。」
「私も、もう少し若ければ、と思うことが無い訳ではございません。しかし、最初の30年は、ただお家が衰退するのを見ているだけでございましたし、最後の8年が特別だったのでしょう。」
「でも、セバスの活躍がなかったら、今のリンツ家はないよ。それどころか私が領地改革に着手する前に没落していたはずだよ。本当にありがとう。」
「そう言っていただけるだけで、身に余る光栄にございます。」
どうにも寂しい。それ以外に言葉が浮かばない・・・




