グラーツ帝国とリンツ伯爵領
グラーツ帝国は、中央大陸と呼ばれるこの地の西端に位置する大国である。
帝政を布いてから約240年経つが、前身のグラッフェン王国時代185年を加えると400年以上の歴史を誇る。この間に8人の王と16人の皇帝(ただし8代王と初代皇帝は同一)を輩出した。人口は推定で約1200万人。中世ヨーロッパと比較しても、なかなかの大国である。
首都はグランファーレンといい、普段は単に帝都と呼ばれる。人口は40万人を数える大陸一の大都市である。
属国というか衛星国として、南西部にイシュファハーン王国を抱え、かつて帝都の北を領した旧グデーリアン王家、現在のグデーリアン公爵家を傘下にすることで帝国としての体裁を整えている。ちなみに、イシュファハーンもグデーリアンも元は大公家であったが、現在はそれぞれの立ち位置に収まっている。
地勢はどうやら温帯で、北部は冷涼ながら南部はかなり温暖である。国土は平原や丘陵がほとんどで、山岳地帯はイシュファハーン国境沿いと東部辺境以外に目立ったものはない。降水量も、前述2地方を除けばほどほどで、広大な畑作地帯が拡がる。
国土面積はよく分からない。約200年前の探検家、リチャード・ヒルマンが作成した大陸地図があるようだが、そう簡単に閲覧できるような物ではない。ただ、ロスリーの街から帝都までは馬車で2週間、早馬でも10日ほど要するとのことなので、結構広いと考えて良いだろう。
対外的には、隣国として同じく大陸有数の国家と国境を接している。
東隣のエル=ラーン王国とは5年ほど前に同盟関係となったが、北のマルチン=ユグノー王国とは伝統的に対立している。そして帝国では、この3国の民族を総称して「大グラーツ民族」と呼んでおり、覇権主義の根拠としている。ただし、エル=ラーン語については一応、外国語扱いのようだ。
リンツ領はその帝国の東端にある。帝国は平野が多いのだが、ここは領地北側の隣国国境沿いにエル=ラーン山脈とその支脈が走り、山がちである。気候は非常に温暖であり、特に夏の蒸し暑さは香川県を凌ぐ。降水量も例外的に多く、貧しいが、水と木材だけは豊富である。
ちなみに東は他家の小さな飛び地領があり、その向こうは隣国、南は海である。
そして、この山がちな土地に約3万余りの領民が暮らす。領地内には8つの騎士爵家が寄子として領地を経営しており、伯爵家直轄領にはロスリーとスーディルという、いずれも人口1万にも満たない町がある。
唯一の自慢といえば、スーディルに天然の良港がある、というくらいである。
リンツ家は、この地を約350年統治している古い家ではあるものの、ただ今絶賛凋落中である。