スーディル到着
船は順調過ぎるくらい快適に進み、予定より早く、14日午後に入港した。
しかし大量の荷物を積み替える都合もあり、今夜はスーディル城に泊まることにした。
「叔父さん、コジマさん、ご無沙汰しております。」
「いやあエル、元気そうだね。それに噂には聞いていたが、これは綺麗な奥方様だねえ。それに、ローサ夫人も大きくなられました。」
「初めまして、ジョルジュ様。アナスタシア・ボーエンです。」
「お久しぶりです。ローサです。」
「まあまあ、ローサ夫人もご立派になられて。やはり長生きはするものですね。」
「コジマさんもお元気そうで、ローサもとても嬉しく思います。」
「何と言ってもローサにとっては命の恩人だからね。」
「それはお坊ちゃまあってのことですよ。」
「まあ、立ち話も何だし、入浴の準備も出来ているから、さあ、中へ。」
「それで叔父さん、新作の方はどうです。順調ですか?」
「ああ、悲恋物を書いているんだよ。もう、あらすじは出来ていてね。貴族家の対立の中で引き裂かれる若い二人の切ない物語だ。」
それって、あの、ロデオとブリギッテじゃあないか!
「タイトルは星降る夜に、に決まっている。」
そんなドラマか映画、絶対あるよね!
「うん・・・楽しみにしてるよ。それと、叔父さんに頼み事があるんだけど。」
「嬉しいねえ。何でも言ってごらん。」
「一つは、妻たちの肖像をお願いしたいんだ。ウェディングドレス姿のもの。」
「いいねえ。二人とも絶世の美女だから腕が鳴るよ。明日からでもいいよ。」
「じゃあ、今度二人のお披露目をするから、その時にお願いするよ。それと、今度分家を立てようと思うんで、紋章を新たに作りたいんだ。」
「じゃあ、リンツ家の紋章をモチーフにするんだね。」
「う~ん、メドゥーサ、いや、グラッフェン神話でいうカーメラのデスマスクでお願いしたいんだ。全体のシルエットはリンツ家の盾、ヘビは鎖風に、そうすれば意匠は類似する。色は顔を白か銀に近い色、背景は灰色がかった緑でお願いしたいんだ。」
「そりゃまた個性的な・・・何も縁起の悪い物を使わなくてもいいんじゃない?」
「でも強そうでしょ?」
「そりゃあそうだが・・・しかし、お前の発想にはいつも驚かされる。きっと何か意味があるんだろうし、分かった。すぐに描くから期待しててよ。」
「ありがとう、叔父さん。」
向こうの部屋ではコジマさんたちがキャッキャしてる・・・




