アナスタシアの思い
「そうですか。そんなやり取りが・・・」
「まあ、アーニャさんを心配して、私を試したようだけど。」
「それはエル君に不快な思いをさせてしまいました。申し訳ございません。それに陛下たちにも心配をかけていたのですね。私が至らなかったばかりに、皆に迷惑をかけてしまっております。」
「それは違うよ。全てはあの殿下が悪かったわけだし、周りの大人の責任だと思う。だから、そんなに気に病む必要はないよ。」
「ありがとうございます。」
「でも、両陛下がそこまで思っているとは思わなかったよ。」
「実際、両陛下もヴォルフガング殿下やフランカイザー殿下なども、大変私に良くしてくれました。」
「つまり、あの殿下だけが例外だったと。」
「はい、実はそうなんです。殿下だけが他の皇族方と全く違うお人柄でした。」
「たまたま外れクジだった訳ね。でも、能力的にはどうだったの?」
「そうですね。私からは大変申し上げにくいことなのですが、努力すればできる方だったと思います。」
「つまりはそういうことね。でも、他の殿下は皆、出来が良かったんでしょう。アインツホーフェン夫人も言ってたし。それで、何で一番不出来な人物を皇太子にしちゃったかなあ?」
「それは、陛下が即位された時の事情があると聞きました。ご存じのとおり、陛下は先帝陛下ご夫妻や皇太后様、前シーラッハ公爵様ら多くの皇族方を粛清して、その座に就いた方です。そのお陰もあって、安定的な政治体制を維持しておりますが、反面、皇族の数があまりにも少なくなりすぎてしまいました。そのため、皇后様とご成婚するのとほぼ同時に第二、第三側妃様ともご結婚され、今では7人ものお子をもうけられました。そしてさらに、治世を安定させるため、立太子を可能な限り早く行い、結婚させようとしたそうです。それに加えて、先帝陛下側に付いた絶対忠誠派である西部諸侯に代わる支持母体として、南部諸侯に目を付けたという事情も重なったのです。このため、南部諸侯と友好国という狭い選択肢の中、私が最有力という事になり、半ば強引に決まった事のようです。」
「そうだったのですね。どうりで公爵家があれほど我慢してた訳だ。」
「でも結局、無理に決めたものには無理があったのですね。そういう意味では、殿下も被害者と言えるでしょう。」
「いや、あれは間違いなく加害者だよ。私が証拠だ。」
「ありがとうございます。本当にエル君はお優しいですね。」
「これが普通だと思うけどね。アレはちょっと酷すぎる。」
「いいえ、普通の方は、あのような場面で手を差し伸べてはくれません。エル君がいなければ、私は今ここにはいられなかった。これは動かぬ事実です。」
「まあ、そう言ってくれると嬉しいよ。」
ホント、苦労人だよね。




