悲哀満ちる
残った兵は抵抗もなく降伏した。
まあ、率いる将が不在ならそうなるだろう。
彼らは武装解除の後、それぞれの故郷に帰すことにした。
我が軍ではとても彼らを養う余力はないのである。
「しかし団長、今回はとても立派でした。」
「まあ、それほどでもありませんぞ。もしかして、タダの酒飲みと思っていたのでは?」
「いえいえ、とんでもない。しかし、本当に強かったです。」
「旦那様なら初撃で決まっておったでしょうな。」
「父って、そんなに強いのですか?」
「ああ、他はともかく、戦いとなれば無類の強さを誇りますぞ。」
「しかし、勝つ秘訣などあるのでしょうか?」
「人馬一体、これにつきますなあ。いかに有利な場所を取り、思い通りに相手を突くか。いろいろ御託を並べる者もおりますが、あれのほとんどは、ただの自慢話でございます。」
「では、相手の強さは一目で分かるものなのでしょうか?」
「分かりますぞ。そしてあの将も分かっておったはずです。」
「騎士とは、かように気高いものなのですね。」
「同時に、これほど悲哀に満ちた存在もござらんよ。」
「そうなのですね・・・」
そして、皮肉なことにこの7月13日、帝国とマルチン=ユグノー王国との間に講和が成立し、東部諸侯連合軍には7月22日に通知がされた。
これをもって戦闘は終わり、両国の間で新国境の確認作業を行った後、8月8日に現地を発つこととなった。
「しかし、終わるときはあっさり終わるものですねえ。」
「そうよのう。もうこれで当分は戦争もあるまい。」
「そうですか?」
「ああ、マルチン=ユグノーは今回の戦で穀倉地帯の多くを失った。陛下は敵が弱り切るのを待つじゃろう。」
「ああ、タスト郡とオットーシュバルツ郡を分捕りましたものね。」
「そうよ。郡とはいうが広いからのう。それにしてもタストか・・・懐かしいのう。」
「これで帝国が奪われていた領地は全て戻って来たのでしょう?」
「そうじゃな。そしてかの国の衰退も決定的になった。まあ、貴殿のおかげじゃよ。」
「それは褒めすぎでは?」
「そんなことはあるまい。あくまで正当な評価じゃ。」
「でも、また余計な恩賞とか押しつけられるんじゃ・・・」
「心配はいらんさ。儂もそなたもな。儂もこれ以上何も望まんしの。それより、墓はまだ残っておるかのう・・・」
勝った方にも悲哀は満ちる。




