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リンツ伝  作者: レベル低下中
第二章 貴族学校編
404/1781

ふと、考えてみた

 思えばそれは突然だった。


 いや、突然というか、長く戦場にいたせいだろうか。

 久しぶりに、これが夢なのか現実なのかという、答えの出ない疑問を思い出してしまった。


 あれから13年経つ。そして13年生きてきた実感がある。本当に長いのだ。

 実際、今、賄賂用に用意した精密機械工廠製の時計を見つめているが、確かに時間の流れるスピードは、部屋にあった目覚まし時計と同じだ。


 そして、戦場で嗅いだあの焦げ臭さ、私が知らないはずの爆音や剣戟の音、流れる汗、どれもあまりに細かい描写で、とても夢のそれではない。


 しかし、夢という根拠もある。

 アナスタシアさんのAIはともかく、私が目覚めたのは生後半年。

 しかもそれ以降の記憶も普通に残っている。

 現実では、脳が未発達で記憶を司る領域が不十分な乳児が、その記憶を持ち続けるのは困難と言われる。

 にも関わらず、最初のマリアさんとオルガさんの顔から全て覚えているのだ。

 それに第一、これが現実なら、あの日眠るまでが夢だったのか?恵利加や舞たちも?


 それに、あれが夢なら、この時代で実現した数々の発明は、いや失礼、先人の知識はどこから来たものなのか。

 私が夢の中で得た知識をもって、現実のこの世界でチートを発揮?

 いや、自分の知識以上のものは再現不可能だろう。だって夢想に過ぎないのだから。


 事実、この時代の方が文明的に劣っているし、私の持つ知識以上のものは何一つ実現されていない。

 まあ、これが夢で無ければ現実から現実に移動したことになるが、これは科学的に説明がつかない。

 以前も言ったが、仮にも理科の教師が科学を否定するなんてできない。


 夢である根拠は他にもある。今回の戦争だ。


 以前のシュバイツァー男爵との戦でもそうだったが、戦争を知らない平和な日本人である私が、多くの人を殺し、死体をこの目で見て、砲撃命令を躊躇なく出すなんてあり得ない。

 現実の自分の思考回路なら、人を殺めるくらいなら自分から死を選びかねない甘ちゃんなはずなのである。


 いや、これはすでに人を殺めてしまった自分の言い逃れか・・・

 でも、弱い私は、これが夢であって欲しい、と逃げ出したくもなる。


 そうか、心が弱っているんだな。

 この辺りは現代日本人らしい。

 それに少なくとも、こんな私がデフォなら、家族に会わせる顔がない。


 結局のところ、夢か現実かは分からない。

 仮に今、私が亡くなった場合、令和5年7月9日で目覚めるのか、それともご臨終なのか分からない。


 それでも私は、この夢らしき世界で懸命に生きる。

 もし万が一、これが現実で、いい加減に生きていたら後悔すること間違いなしだからだ。

 先ほど、これが現実なんてあり得ない、なんて考えたが、ひょっとして、という思いもあり、迷っている。


 ああ、またこんなことに時間使っちゃったなあ。


 でも実際、考える時間が沢山あるんだよなあ。


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