3年も覚めない夢は夢なのか
帝国歴240年2月9日
これが夢の中での本日の日付。そして、私は本日で3才になりました。
いくら夢でもこれは長い。きっと目覚めれば、三者面談の資料をすぐに思い出せるとは思うが・・・いや、思い出せるか?
そして、この3年間でそこそこ体力が付き、言葉もまあまあ分かるようになり、今は屋敷内の本を片っ端から読みあさっている。周囲からは「我が儘も言わず泣きもせず、剣術や読書に明け暮れる神童」みたいに思われているが、中身が49才であることを誰も知らない。
では、ここまで集めた情報を整理する。
まず、執事の名はやはりセバスチャン。いや・・・これはどうでもいい。
気を取り直して、まず、私の名はエルハバード・リンツ。伯爵家の嫡男であった。
ちなみに兄弟はいない。そして父はミハエル・リンツ。現伯爵で、それなりに名の通った軍人らしい。
母も健在であった。 セシル・ヴァンリッヒといい、子爵家の出身で、帝都生まれの帝都育ち。私の出産時、一時的にここに滞在していたそうだが、それ以外は帝都の伯爵邸に住んでいる。
そして、これが最も重要な情報であるが、当家は借金がかさみ破産寸前であること。
私の夢の中なのに、イージーモードではないみたいだ。
父は、状況を打開するために中央で官職を得ようとしているようで、屋敷を留守がちである。寡黙で苛烈、とってもおっかない雰囲気の父であるが、滅多に居ないのは嬉しい。
そしてここはグラーツ帝国の東端、隣国にほど近い辺境の地で、屋敷は領都ロスリーという街にある。なんかくすんだ雰囲気の田舎町である。
また、屋敷もボロい。一応は貴族の館らしき体裁は保っているが、貧乏なのが丸分かりである。当然、風呂やトイレはなく、中世然とした暗い佇まいである。
そして、この覚めない夢における私の目標も決まる。
当面は没落阻止と、この耐えがたい低レベルな生活環境を改善することである。
きっと、問題解決の目処が立った頃に目覚ましが・・・ 鳴るのだろうか?
夢を見ている際の感覚については全く自信がないが、それでも、この夢が異常に長いことだけは分かる。何度か試しに体中の力を込め、「起きろ」と念じたが、何も起こらなかった。しかも転んだら痛いし、腹も減る。夢ってこんなにリアルだっけ?
ちなみに、この世界には勇者や魔法、エルフ、宇宙人などは存在せず、ステータスオープンもできない。あくまで科学崇拝者たる私の描いた世界である、多分。