帝都への帰路につく
「アナスタシア様、ただ今ボーエン公爵家から使いの者が参っております。」
「ありがとうございます。お会いいたしましょう。」
「では、応接室に待たせておりますので、どうぞご案内いたします。」
「これはお嬢様、初めまして。東部情報担当執事のルーデルと申します。」
「アナスタシアです。して、ご用の向きは。」
「はい、お喜びください。陛下との和議が成立し、当家からの要求は全て受諾されました。つきましては、陛下より謝罪を受けるため、急ぎお戻りになるように、とのことです。」
「まあ、これで戦は終わるのですね。」
「エルハバード様は国境まで兵を進めるご意向ですので、今しばらくはくすぶり続けると思いますが、いずれにせよ、終結に向かうものと考えております。」
「分かりました。帝都に向かい、早期解決の一助となりましょう。」
こうして急ぎ準備に取りかかり、翌18日に出立となった。
「それでは皆さん、大変お世話になりました。このご恩、生涯忘れません。」
「いいえ、それほどのことは何も。私共はただ主の命に従っただけでございます。」
「ありがとうございます。このお礼は十分にさせていただきます。」
「ほほほ。若様が真面目に勉学に励むよう、よろしくお取り計らいいただければ十分でございます。そして、またこのロスリーに、今度は心安らかにおいでいただきますこと、家人一同、心より願っております。」
「重ね重ねのお言葉、ありがとうございます。ローサさん、一足お先に帝都にまいりますので、またお会いいたしましょう。」
「はい、道中お気をつけて。」
「ではみなさん、行ってまいります。」
馬車は屋敷のメンバーに見送られ帝都に向かう。
「お嬢様、良いところでしたね。」
「ええ、人も、町も、全てが夢のようでした。もし許されるなら、もう一度ここで楽しく笑えたらと、心からそう思います。」
「将来はここで暮らすのではないのですか?」
「そのような欲を張ってはいけません。どうやら断頭台は避けられたようですが、私の立場は依然、その程度の危ういものです。気を抜くことも、謙虚さを忘れることも、反省を怠ることもなりません。」
「でも、今くらいはよろしいのではないですか。」
「ええ、今だけは、この風景を心に刻もうと思います。」
車窓を流れるロスリーの町並みは陽光に白く、まぶしく輝いている。
馬車は速度を上げ、東部街道を駆けていく。




