これって自由研究だよね
「・・・・・」
「随分、恐ろしい結末が見えましたね。」
「じゃあ、領民を押さえつけて豊かにしない今の状況も、悪い意味では理に適っているということかな?」
「いや、私はそうは思わない。今の貨幣経済の浸透は、最早誰にも止められない。である以上、もしこの帝国が国民を豊かにしない方針を取れば、そうしなかった隣国に淘汰される。豊かさは武器だし、戦争は経済力が物を言うからね。」
「なるほど、そのためにはこの論文の指し示す行動を取らないと、いえ、取らざるを得ないということですね。」
「つまり、領地経営マニュアルがその一助になると。」
「そう考えると、とんでもない物を作ってるような気がしてきました。」
「でも、だからと言って作らない訳にはいかないよ。」
「はいはーい!難しいことは一旦置いて、お茶しない!」
「リサさん、お茶よりいい味出してるよ・・・」
「結局、民の生活を良くする以外の道はないんだね。」
「それでも、良くしない領主は多いけどね。」
「それもいつまでもは続かないよ。人は常に進歩を求める。昨日より今日、今日より明日、より良い生活を求め続けるのが自然な姿なんだ。それを無理に押さえるのは不自然、不自然なものは、やがて破綻する。」
「エル君が何だか学年主席に見えてきた。」
「19番だよ。」
「そうですね。哲学が54位とは、とても思えません。」
「我考えない、故に我なし。」
「それ、誰の言葉?」
「ただの思いつきだよ。実際、哲学なんて難解な学問、私の手には負えないよ。」
「そういえば、領民の生活を良くするために教育を行うんだよね、そして識字率が上がり、貨幣経済がより浸透し、人口が増え、民衆が力を得る。どうやっても貴族の力が落ちる要因にしか繋がらないね。」
「そうだね。その認識で正しいと私も思うよ。貴族の数なんて一代限りの騎士爵を合わせても7万人弱、人口の0.6%程度だ。ここに帝国の富の7割が集中しているからこそ、今の体制は維持できている。でも貨幣経済の拡大は、必ず王侯貴族の影響力を相対的に低下させる。そうなった時には、僅か0.6%しかいない特権階級なんて消し飛ぶよ。」
「そうならないための領地経営が必要なんだね。」
「私だって消し飛ぶ側の人間だからね。悪あがきしてるんだよ。」
「エル君の予測、当たりそうで怖いですね。」




