いつも波静か
「ご主人様?最近はとてもお忙しそうです。少しお休みになられては?」
「ありがとう。もう少しで切りが良い所まで終わるんだけどね。」
「何をなさっておられるのですか。」
「うん、1年間の成果として、グループで研究をしているんだ。でも、やる事がとても多くてね。遅くまで明るくしてごめんね。」
「いえ、そのようなことはございません。それで、どのような研究ですか?」
「領地経営に関することだよ。うちもいろいろな事をして、随分良い領地になったから、その成果をたくさん盛り込むことができるよ。」
「そうなのですね。ご主人様はいつも、とても頑張っておられましたから。」
「まあ、領主の仕事をしてただけなんだけど。」
「いいえ、ご領主様の中には、あまりよろしくない方も多いと聞きます。でも、ご主人様はとても慈悲深く、領民に慕われておられます。とてもご立派なお方です。」
「そう言ってもらえると頑張った甲斐があるね。」
「はい、私の自慢のご主人様でもありますから。」
「でも、その割に求婚を受けてくれないよね。」
「それは・・・その、大変心苦しい事ではございますが、私ではダメなのです。」
「ローサの気持ちは分かってるよ。私はどんなに時間がかかってもいいと思ってる。いつか、ローサが心から納得して、自分の足でこちらに踏み出してくれるのを、待つつもりだよ。」
「私は・・・その・・・」
「今はそれでいいんだよ。無理に言葉を作らなくていい。そういう時は得てして上手くいかないものだ。ローサが最高の言葉を紡ぎ出すまで、いくらでも待つから、ゆっくり考えればいいんだよ。」
「ご主人様は、いつもお優しいです。そして、いつも穏やかで、広い海のようです。」
「荒れることもあると思うけど。」
「時々、とても楽しそうに荒れていることはございますね。」
「いや、あれは、ちょっと違うような気もするなあ。」
「でも、ご主人様がそこにいるだけで、周りの方はみんな元気になられます。」
「ああ、特に商店街辺りにそういう人、多かったよね。」
「はい、お肉屋の旦那さんとおかみさんは、特にお元気そうですよね。」
「アイツら・・・グヌヌッ・・・」
「ご主人様?白波が立っておられますけど、大丈夫ですか?」
「いや、商店街を思い出してしまった。」
「申し訳ございません。お邪魔をしてしまったみたいで・・・」
「いや、こうしてローサと話している時間が一番楽しいんだから。」
「はい、波が穏やかになりました。」
「しかし、ローサもどんどん言葉を覚えていくよねえ。」




