半年暮らしてみて
季節は巡りすっかり冬。
今回の夢はやたらと長い。まだ私を憂鬱な現実に引き戻すベルが鳴らない。
あの後、程なくして離乳食になって、すり下ろしたリンゴなどが貰えるようになった。
まだまだ単調な食事メニューに不満は尽きないが、あのまま母乳が続いていたら、間違いなく夢を強制終了させるべく全力で力んでいただろう。ちなみに、夢と分かっている状態なら本気で起きようと思えばできた・・・はず。
また、筋トレの甲斐あって、すでに歩くことができるようになっている。
すぐさまトイレを自分でできるよう練習したが、メイドさんたちが大変驚き、そして喜んでくれているのが分かった。もうすぐトイレもマスターできそうだし、今でも漏らす前に意思を伝えることはできる。
もう一つの言語習得であるが、こちらはさすがに難しい。
だが、メイドさんの名前は分かった。年上がマリアさんで、若干若いのがオルガさん。
しかし解せないのが、お二方とも海外ではごく一般的な名前なのに、なぜ最初にリスニングできなかったのか。しかも、名前は理解できたのに他の単語はさっぱり分からない。
例えば、日本で育った外国人子女は基本的に母国語が苦手、といった話を聞くが、私の耳がこの地の言語に対応できるように成長したという面と、反面、それだけでは、この未知の言語をマスターできない、ということなのだろうか。
また、これまでの事を整理していて分かったことだが、「エルなんとか」という単語を多く聞く。おそらく、これが私の名前ではないかと推測する。
ソウタでは無い模様。
また、父らしき人は何度か会った。これはマリアさんたちの雰囲気から察したのであり、大変偉そうな人であった。
そして母らしき人はいない。授乳してくれていた女性は、離乳期に入って一度も会っていないので、あの方はいわゆる乳母なのだろう。出産時に母親が亡くなる不幸は往々にして起こることであり、まして中世レベルの医療では、そういうこともあり得ると考えていた方が良い。
単なる夢なのに、設定がやたら具体的でシビアだなあと思う。
そのほか、この家には執事もいた。名前はよく聞き取れないが多分、セバスチャン。
何となくそう聞こえるのと、やはり異世界モノの執事はセバスチャンでなければならない。少なくとも、この手の物語の執事名におけるセバスチャン率は70%を超えているのではないかと思う。
所詮、私の夢なので、きっとセバスチャンとマリアさんはデフォである、そう思って間違いない。