準決勝第二試合
「では両者、始め!」
すっとボーエン嬢が下がる。
相手の得物はレイピア、って知らないよ、そんなの。
私の剣は高校時代の授業で習った剣道がベースである。すり足のあれである。
試合開始後すぐに相手は腕を伸ばしてくる。
こちらが嫌がって中段に構えると、すぐさま剣先をこちらの剣に当てて牽制してくる。
非常に、ひじょ~に嫌らしい戦い方だ。
一旦後ろに下がって冷静になる。
相手は突き一択。こちらが防具を着けているので、レイピアのなぎ払いは有効打としてカウントされない。
横に回ればこちらが有利だが、それ以上に・・・
少しづつ間合いを詰める。
レイピアである以上、守りの剣ではない。
あんな細くて軽い刀身では、木剣すらまともに防げないだろう。だから、相手に打たせる!
正面から相手の懐に入り、剣を振り下ろす体勢に、相手はすかさず右に躱す。
やはり早い。スピードは完全に相手が上だ。
両者構え直す。
再び間合いを取る。
レイピアがこちらの胸に入らないよう、左右に払い、牽制する。
フェンシングの試合で、何かチョコチョコやっているが、何でああいう展開になるのか、今ならよく分かる。
でも、これは完全に相手のペースである。考えろ!
リーチもスピードも相手が上。
しかし、相手はこちらを右利きだと思っている。
でも私は実は両手ききだ。いや、元は左ききだったが、左は何かと不便ということで、矯正されたのである。
夢の中でもその設定は有効だった。
きっとこれほどの使い手だ。
それを見越してさっき右に動いたのだろう。
ならば、もう一度飛び込んだ際に剣を持ち替え、左に大きく薙ぎ払ってやろう。
相手は避けきれまい。
相手の突きを軽く払い、空いた正面に飛び込む。
そして剣を左手に持ち替え、横に振る。
相手は予想通り右、そう、向かって左に動く。
よし、来た!
相手が一瞬驚いたのが分かった。
しかし、私の常識を上回るもう一段のステップでさらに横に避けた。
凄い!あれって、咄嗟にできるものなの?
こちらの剣が空を切る。
すかさず向こうが突きに来る。
仕方無いので、身体を一回転させ、レイピアを背中越しに躱しながら剣を上に構え、振り下ろす。
もう剣道もへったくれもない、デタラメだ。
相手もレイピアを立て、つばぜり合いになる。
ご令嬢なのに、意外と力も強い。
決して嗜みの剣ではない、鍛錬した剣だ。
さすが我がクラスのラスボスである。
仕方無いので、一旦離れ、こちらもレイピア風に剣を突き出す。
相手の流儀に合わせるのは業腹だが、正攻法が通じない以上、こちらも相手が嫌がることをしないと勝ち目がない。
そして渾身の突き。期せずして相手と同じタイミング。こ、これは、カッコイイ!
勝負は一瞬で決まった。
突きは互角、パワーはこちらが上。
しかし、突きの精度があまりにも違った。
こちらの剣は相手の脇腹をかすめ、相手の剣はこちらの顎。
本番だったらこちらは死んでる。
「そこまで!勝者、アナスタシア嬢。」
レイ君、この人マジもんだよ。




