静かな夕食
学生生活において、特に大切にしないといけない事がある。それは、学食や購買のおばちゃんと仲良くすることである。
もちろん私は高校時代からそうしてきた。
しかし、この学校では身分が邪魔しているのか、頭を下げることを知らないのか、そのような行動ができない者ばかりである。
その点、私は若い頃の教えを忠実に守り、早くも「大食いエルちゃん」とおばちゃんたちのハートを鷲づかみしている。
教員時代、生徒には人気のなかった私であるが、今の私は食堂で何気に大盛りだったり、皿が一品多かったりする。
そして、食堂内で食べることはできるが、私は専ら部屋に持ち帰って食べる。
理由はご想像の通り、ローサとディナーを楽しむためである。
「二人でディナーを楽しめることだけは、学園のいいところだなあ。」
「でも、こうして使用人と共にお食事される方は、ご主人様だけですよ。」
「そうだね。みんな食堂で寂しく食べてるよ。」
「従者の方も、そうですね。」
「あれが不思議なんだよね。上級貴族の従者ともなれば、貴族家の出身者なのにね。」
「そういえば、なぜご主人様には従者が付かなかったのですか。」
「うちは貧乏だったし、周辺の貴族家と疎遠だからね。それより、これ食べてみて。」
「よろしいのですか。これはご主人様の分では?」
「いつも余分をもらってるんだよ。従者用は品数も量も少ないしね。」
「いつもありがとうございます。では、少しだけ、いただきます。」
「静かだけど、とても雰囲気いいよね。」
「はい、お月様を見ながらお食事できるなんて、とても特別な感じがいたします。」
「帝都のどのレストランより、ここがいいね。きっと城よりも。」
「そういえば、今日初めて殿下を拝見しました。」
「よく殿下って分かったね。」
「ええ、東階段を降りてきましたので。」
「ああ、あそこは最上階にしか繋がってないもんね。で、どうだった。」
「はい、とても威厳がおありと言いますか、近寄りがたい雰囲気の方でした。」
「まあ、あの近辺に近づかなければ大丈夫だよ。」
「でも、お一人でした。」
「護衛とか、従者は?」
「いえ、お一人でした。」
「まあ、あんなのはどうだっていい。とにかく今はこの時間を楽しもう。」
「はい、お料理も冷めてしまいますしね。」
「そう、それに、月明かりが照らすローサがとても素敵だからね。」
「ご主人様、それは他のご令嬢におっしゃった方がよろしいのでは?」
何というか、駆け引きですな・・・




