医薬品研究所の設立
ついに長年(仮)で運営していた医薬品研究所が発足した。
とはいっても、ロスリー市民病院内の一角を間借りしてのスタートである。
育成確保した医療従事者の数はまだ少なく、育てた側から各地に赴任させている状況では研究所専属、という訳にはいかず、病院敷地から離れることができないための措置である。
勿論、こんな街中で病原菌の実験は褒められたものではないので、できるだけ早期に他所へ移転予定だ。
場所は市内南の、のろし台に登る山中を予定している。
「いやあ、クリスティアンさんとローマンさんもお元気そうで何よりです。」
「いえ、ご領主様、お久しぶりです。来ていただけるだけで嬉しいです。」
「こんなに近いのに、なかなか時間が空かなくてね。」
「いえ、お忙しいでしょうから、気になさらないで下さい。それに、帝都に行かれるそうで、その前にお会いできてとても嬉しいのですから。」
「そうです。それに、こんな立派な発足式まで開いていただいて、大変光栄です。」
「研究者は増えました?」
「ええ、皆、病院と兼業ですが、私たちを含めて8名で行っています。」
「まだまだ少ないね。」
「ええ、目の前の患者が優先ですので。」
「この部屋は?」
「血清の開発を行っています。最初は驚きました。まさか馬の血で病気が治るなんて。」
「現在は、ガス壊疽とジフテリアを研究しております。」
「まあ、これといった毒蛇もいないからねえ。」
歩みは遅くとも確実に前進してくれればいい。
「向かいはワクチンかな?」
「はい、生ワクチンの開発室です。ただ、弱毒の塩梅を見極めるのがとても勇気が要ることで、なかなか次に進まないんです。」
「それは、気持ちはよく分かるよ。時間はかかってもいいから、慎重にお願いするよ。」
「はい、ありがとうございます。生ワクチンは、ご領主様の指示通り、はしか、風疹、おたふく風邪、結核、ポリオ、水疱瘡、腸チフス、狂犬病、天然痘について開発を進めております。」
「もう、病名を聞いた時点でビックリでした。これらの予防が確立したら、それは医学の革命ですから。」
「あくまで予防だからね。それと病原菌の取り扱いはくれぐれも慎重にお願いするよ。ここには特に体力的に弱った患者も多い施設だから。」
「はい、細心の注意を払います。」
「ところで、論文は発表したの?」
「ええ、でも残念ながら学会から叱られてしまいました。そんな怪しい装置を使った検証不可能な論文出してくるなって。」
あ~やっぱり。




