エルハバード、過去最大の調子に乗る
シュバイツァーの笑い声が響く。
商人にしては、感情豊かな御仁だなあと思う。
「愉快愉快、これほど胸のすく思いは久方振りじゃ。リーブル伯爵殿、感謝いたす。さあ、エルハバードよ、即刻我が領地から立ち去れ!グワッハハハハハッ!」
「で、調停人よ、話はもう済んだか?」
「ああ、いかにも。」
「皆の者、聞いたとおり交渉は決裂した。よって我が軍は総攻撃を開始する。各位出撃準備をせよ。」
幕舎内の伝令が外に駆け出す。
「ま、待てエルハバード。これは内務卿からの命令である。聞かぬとなれば貴家は断絶を含む厳しい処分が下ることになるぞ!」
「そもそも、シュバイツァーが滅亡すれば調停の必要はないし、大体、何故勝っている我が方が一方的に譲歩せねばならぬ。我々は我々のすべき事を成すまで。」
「ま、待て、そ、そんな事をすればそちもタダでは済まぬぞ。」
「裁定に従っても、タダでは済んでないだろう?」
「き、貴様っ!どこまでこの私を愚弄すれば気が済むのじゃ!」
リーブル伯爵は剣を抜き放ち、私の首筋に刃が当たる。
いや、本当に当たってる。
下手くそめ、血が出たじゃないか!
「ほう?自分の意見が通じなければ剣を抜くか。とんだ調停人だな。それでどうする。まさか、それを横に薙ぎ払って帝都に帰れるとは思っておるまい。」
「な、ぐっ!」
「ここで、剣を振るって華々しく散るか、無様に剣を鞘に収めるか、そなたに決めさせてやろう。好きな方を選ぶが良い。」
「まあまあ、両者ともその辺にしたらどうじゃ。リーブル殿、調停人が冷静さを失うようではいかんぞ。それに、リンツ家にも言い分があるのではないかのう?」
えっ?この人、案外いい人かも。
「わ、分かった。」
リーブル伯爵は剣を収め、席に座る。
「ところで、そちらに言い分があれば聞こうか。」
「その前に・・・中央の貴族は罪なき者に剣を向け、謝罪の一つもしないのがしきたりなのか?」
「ぐっ、なっ、・・・むむむ・・・」
「何がむむむだ!」
やった、これ、これが言いたかった。
まさか生きているうちに、これが言えるシチュが来るなんて!
こんなの、プロレスで例えたら、ロメロスペシャルが決まるくらいレアケースじゃないか!
あ~生きてて良かった!
何か交渉中なのに、我を忘れて喜んでいる私が居る。




