熱く冷えた停戦交渉
帝国歴248年5月8日
さて、リンツ軍の本陣にメンバーが集まった。
私とシュバイツァー男爵、エンリコ・バッセ准男爵、調停人リーブル伯爵、立会人エルリッヒ伯爵である。
本陣は中央に柱を備えた幕舎、所謂テントである。
日本の戦国時代なら周囲に幕を張った野天であるが、文化の違いは大きい。
「これはエルリッヒ伯爵殿、お初にお目に掛かります。ミハエルが子、エルハバードにございます。この度はご足労いただき、恐悦至極に存じます。」
「いやいやお気になさるな。此度のことは、この東部を預かるそれがしの不徳の致すところでもある。それにしても、ミハエル殿のご令息がのう。立派になられたものよ。」
と、咳払いが一つ。
「挨拶はそれくらいでよかろう!儂は一刻も早くこんな所から去りたいと言うに!」
「ああ、これはこれは、シュバイツァー男爵ですな、お初、でよろしいですな。いやあ、戦場ではどれだけ探しても見つからず、挨拶が遅れてしまいました。」
「なっ、何だと!」
「それにしても、敗軍の将として領内を無様に逃げ回っていた割に元気そうで何より。」
「貴様!ク○ガキのくせに無礼であろう!」
「はて?私も伯爵家の人間だが、盗賊の頭目に尽くす礼儀は、さすがに持ち合わせておりませんなあ。」
「この、言わせておけば・・・」
「両者その辺にしておけ、交渉が始まらんではないか!」
「そうですな、そろそろ本題に入るべきでしょうな。」
何かエルリッヒ伯楽しそう。
「では、今回の私闘に関しては、調停責任者として内務卿様が当たっておられる。そしてそれがしが現地における裁定者となっておる。」
そう言って、伯爵は内務卿のサインの入った書状を掲げる。
調停でなく裁定って、もう決まってるじゃん。
「では、その私から裁定を下す。今回の私闘は帝国で禁止されている行為であり、断じてこれを認める訳にはいかない。これは全てリンツ伯爵家による一方的な侵略行為であり、厳しく断罪されるべきものである。よって、リンツ伯爵家は即時武装解除し、速やかに領地に戻るよう命令する。追って帝都より厳しい沙汰があるので、それまで謹慎し、みだりに隣領を害すなどの行為を慎むこと。また、今回の私闘の責任は悪逆非道なリンツ家に全て帰すものであり、シュバイツァー男爵家に対して金5000万ディリの賠償を命じるものである。なお、この裁定は内務卿の了承を得た案件であり、一切の異議は、これを認めない。帝国歴248年5月8日、現地裁定人が帝国貴族リントブルム・エルリッヒ伯爵の立ち会いのもと、これを宣言する。」
シュバイツァー男爵が堪えきれず大笑いする。
「正義は勝つ、卑怯千万なリンツよ、思い知ったか!ガハハハハハハ!」




