両軍の睨み合い
さて、ここはロプスドールより西に位置する、シュバイツァー領オルガノ市。
領都では身の安全が保証されていないことを知ったシュバイツァー男爵は、小規模ながら城壁を持つこの街に拠点を移し、陣頭指揮している。
いや、これを陣頭というかどうかは知らないが。
「エンリコ、我が軍の状況は?」
「はい、エッセ河畔に陣取った我が軍の総数は1,500。敵は恐らく700を超えることはないと考えます。大将はバシュ殿、副将にはグナイゼナウ殿を充てております。」
「うーん、バシュはともかく、グナイゼナウに将が務まるのか?」
「やむを得ません。トレド殿はすでに撤退し、キールン殿は領地北に張り付いております。」
「トレドはどうした!怖じ気づいたのか!呼び戻せ!」
「すでに使いをやっておりますが、領地境を固めているようでして。」
エンリコ・バッセの頭に巻かれた包帯が痛々しい。
「ヤツの800の兵があれば・・・しかし、何で1,500しか兵が残っておらんのだ?」
「農民兵の多くは逃亡したものと思われます。それにオツテンブルクは既に裏切り、トスパン、マルク=マリス、アッサム、アーレントとは連絡がつきません。」
「しかも、もうかなりの領地が占領されておろう。」
「おそらく1/4ほどは敵の手に落ちたのではないかと・・・」
「ええい、マズイ、マズイぞ、早く停戦調停人が来ないことには、大変な事になる。」
そんな動きがありながらも4月30日、リンツ軍はエッセ川東岸に着陣する。
「川向こうにすぐ敵の陣がありますが、何か葦が邪魔で見えづらいですなあ」
「そうですね。何とか焼き払いたいですね。」
「しかも、こっちはちゃんと刈り払われとるし・・・」
「ええ、敵は準備万端ですね。夜襲を仕掛けて来ますかね。」
「五分でしょうな。見え透いた手ではあるし、実際、見通しが悪いのも事実。ただ、夜襲ではなく、夜間総攻撃を仕掛けてくるかも知れませんな。」
「そんなに浅いのでしょうか。」
「川底は泥が多いように見えるのう。しかし、浅瀬や橋を使えば出来んこともない。」
「一応は警戒し、地理的なものは至急、把握するとしましょう。」
やや、準備不足な感は否めない。
そして、敵情視察とこちらの陣構築に数日要した。
その間、敵も動かず対峙していた。
敵の意図は分からない。
こちらの油断を誘っているのか、本当に夜襲を掛けるつもりなのか・・・
「で、こちらが攻める場合は?」
「もちろん砲撃から。そして当面は街への攻撃は禁止する。」
「了解ですぜ、坊ちゃん。」
さて、いつ火蓋が切られるか。




