公衆浴場の建設
市内の再開発事業を進める中で、商店街を抜けた市街地西端に公衆浴場と遊園地を整備し、新たな集客スポットを作ることとしていた。
帝国内では入浴の習慣はほとんどなく、夏が蒸し暑く、水が豊富なロスリーですら、一般的とはいえない。
しかし、公衆衛生や健康面でメリットがあることや、処理場から最も距離が遠いこの下水ルートに大量の水を流し込み、排水全体の流れを促進することを目的に建設を決定したものである。
イメージはスーパー銭湯である。
残念ながら温泉ではないが、広い浴槽、サウナ代わりの蒸し風呂、食堂や大道芸などの公演も可能な休憩スペースなど、大人も楽しめるスポットになるよう配慮した。
「領民にも風呂、というのは贅沢ですな。」
「やはり、風呂は贅沢と捉えられているのですか?」
「そうですな、貴族の間では、贅沢であると同時に必要だと考えられていない、といった方が適切でしょうか。特に必要性の無いものにお金と時間を掛けることが贅沢、であるならば、それは贅沢ですからな。」
「なるほど。例えば帝都の貴族であれば、そういう考えなのですね。」
「私もそれほど詳しい訳ではございません。ただ、帝城には浴場があると聞きました。」
「しかし、それほど使われてはないのでしょうね。」
「ええ、恐らくは。貴族でも浴場を所有する者は、ごく限られると思います。」
「それは、水が少ない影響でしょうか?」
「そのような事情もあるでしょう。後は燃料となる木材も慢性的に不足していますし、ロスリーほど蒸し暑くないので、庶民にそのような習慣がないのは、そのためでしょう。貴族については、分かりません。」
「そうですか。では、ロスリーで成功しても、帝都進出などは考えない方がいいですね。」
「ええ、まず失敗するでしょう。」
「しかし、入れば気持ちいいものなのに・・・」
「ええ、私も大変良いものだと思います。しかし、ロスリーであっても、経営は厳しいと思いますぞ。」
「そこは、料金の設定と物珍しさで客を呼び、実際に来てもらって、風呂の気持ち良さと施設の楽しさを知ってもらうほかありません。毎日のことですから、いかにリピーターを増やしていくかを考える必要があります。」
「そうですな、公衆衛生の観点で市民に推奨もしておりますしな。」
「蒸し暑くて、汗でベタ付く季節も、今のような寒い季節も、いいんですよね。」
「はい、全く。」
「それに何より、体が温まると気持ちがほぐれるというか、大らかになりますよね。」
「そうですな。贅沢な気分になりますな。」
「そう。その贅沢を味わう、っていうのを前面に押し出すと来てくれるかもね。」
「とにかく、入浴に良いイメージを持ってもらうことが重要ですな。市民が自然と来たくなるような・・・期待しておりますぞ。」
「まあ、まだ完成は半年以上先の話だけど。」
「次の冬には間に合うと思いますぞ。」
また一つ、他に無い魅力が形になろうとしている。




