今年は静かな年末であることを願う
帝国歴247年12月
遊園地が本日、堂々オープンする。
宣伝はしっかり行った。広報担当が。
きっと、ロスリーの新たな顔として、賑わってくれるだろう。
新型軍艦も設計案が完了し、機関部の製造が始まった。
間もなく船体の建造も始まる。
食品加工工廠では、マヨネーズの生産が開始された。
やっと原材料の品質管理が及第点に達したからだ。
同時にタルタルソースと紅茶風味チョコ、練乳がラインナップに加わった。
しかし、保存技術は全く未熟で、小さな瓶詰めで基本は使い切り、しかも近隣でしか販売できないものが多いのは今後の課題だ。
金属加工工廠ではサイレンサーが完成した。スパイ映画に出てくる銃の消音器である。
まだ使い道がないので試作のみであるが、これから拳銃の開発にも着手する。
また、化学工廠では、紅茶を使った白髪染めを製造開始し、ラウリル硫酸ナトリウムやイソプロメチルフェノールの開発にも成功した。
何を作るかって?歯磨き粉である。
一応、現代水準のものを目標とし、保湿用のソルビット液、グリセリン、増粘剤のキサンタンガムは既に材料として保有しているが、何せ保存技術がアレである。
ラミネートチューブなんてもっての外だが、古式ゆかしい金属製チューブすら難しい。
この時代は金属全般が高級品だし、大量生産技術も無きに等しいので、大量消費材の原料としては不適だし、ロスリー金属工業の技術者をそこにつぎ込む余力は無い。
そうなるとビンの、それも既製品となるが、それでダメなら粉末状の製品でもやむなしと考えている。
私の祖父が使っていた喫煙者用ヤニ取り歯磨き粉はクレンザーみたいなものだったし、そもそも昔の歯磨き粉は文字通り粉だったのだ。
ということで課題は多いが、これも完成すれば、上流階級用にかなり売れるだろう。
これらは研究所主体で任せることにした。現在は私の補助的な活動を行っている技術開発研究所であるが、ゆくゆくは独自技術を編み出してくれるだろう。
水産試験場でもアコヤガイの養殖が順調で、夥しい数の稚貝が育っている。来年か再来年くらいには真珠の核を移植できそうだ。
使役事業も順調で、領内各地で道路が拡幅舗装され続けている。
測量隊も、今月中には領内の周囲測量を完了する予定だ。
完了後は製図を行い、その後、完成した鳥瞰図に入れる道路、都市、河川、山岳などの測量に移る予定。
そして、人口であるが、昨年度末時点で53,017名であることが分かった。
あれからまだ3年である。
そりゃ街も大きくなるわな。
ちなみに、ロスリー市が14,282名、スーディル市が15,041名であり、両都市間に位置するへワークや炭鉱の町ゴホークが急増している。
ロスリーについては、まだ市内南側に広い都市化予定区域が広がっているので、それほど心配していないが、スーディル市は余剰の土地そのものが少ない上、都市整備もロスリーほど進んでいない所に来ての急激な過密化である。都市環境の悪化が懸念される。
懸念といえば、あの襲撃から1年が経つ。
最近は、まるで定時連絡のようにデ=ロペン峠を襲撃してくる賊であるが、相変わらずやる気は今一つで、双方死者が出ない程度の小競り合いを続けている。
その他に行っていることと言えば放火くらいのもので、盗賊なのにどこから収入を得ているのだろうとさえ思う。
なかなか尻尾を見せないが、シュバイツァーへの疑いが益々濃くなってきている。
しかし、これほど長期戦になるとは思っていなかったし、避難している住民も、それは同じだろう。
彼らは元の地での生活を望んでいるそうだが、事態が動かない以上、そろそろ別の案を提示する時期なのかも知れない。




