技術開発研究所
リンツ企業団には様々な工廠がある。
そして、それぞれの工廠では、製品の生産の他に、製造技術などの開発を並行して行ってきた。
それには、各従業員が製造の傍ら、協力して従事しているのだが、長く開発を行っていると、自ずと研究に向いた人材や非常に器用な人が出てくるものである。
そういった人を、研究専門職として活用し、更なる技術革新を進めるため今回、研究所を設立した。
「諸君らは、特にその技術と熱意を認められ、研究者としての一歩を踏み出すものであります。確かに、諸君らは帝国大学や貴族学校のような立派な学歴も、著名な師もいない。しかし、ここで培った技術は、他に類を見ないものであり、それを作ってきた諸君らの実力は確かなものであります。これから先、諸君らの手で革新的な技術を開発し、この地から様々な製品を世に生み出し、世に問い、名声を手に入れて欲しい。」
目の前の研究員たちの真剣さが、目力として伝わってくる。
研究分野は、破壊・耐衝撃、有機化合物、電気、金属加工、光学、製紙技術の6分野でスタートし、適宜、改編していく予定である。
ちなみに、医薬研究所も予定しているが、現在はロスリー市民病院内で、その芽が開きつつある、といった状況である。
いずれ安全な場所で病原菌の研究を行って欲しいのではあるが、医師を含めた人員が少なく、まだ専門職を確保できないのである。研究を目的に集めた人材も、その多くの時間を医師の補助や、看護師的な仕事をしているのが実態である。
この時代においても、医学の専門用語の多さは変わらないので、ただ数を増やしても、却って医師の足を引っ張る事態になることは、既に経験済みなのである。
「施設そのものは、以前に建設しておりましたが、やっと稼働しましたな。」
「ええ、ここで爆発物の衝撃試験や、新物質の開発、ボールペンも開発を引き継ぎますし、性能や耐久試験も行います。ここからいろいろな技術が開発されるでしょう。」
「ご領主様、私たちも、その、この白い服を羽織ると、とても特別な気がして、誇らしくなります。」
「それは、ここで研究を行う者の証ですから、誇っていいのですよ。」
「ありがとうございます。気を引き締めて頑張ります。」
「いずれ、ここで論文を発表する者も出てくるでしょう。博士号を取得するもの夢ではありませんなあ。」
「そうだね。そう言えば君たち、試験結果は必ず記録として残しておくこと。文字が書けない者もいると思うが、書ける者が協力してやって欲しい。それと、ここでの研究内容は、一切口外しないこと。記録した資料も厳重に保管して、外に持ち出さないことを徹底してね。その代わり、君たちが発明し、認められた特許は君たちの物だから。」
「分かりました。絶対に守ります。」
「それと、くれぐれも充分に作業の安全を確認すること。初めての技術とは、全て分からない事に対する挑戦だ。だから危険も伴う。自分を、そして仲間を守り労ることは、研究者の基本だからね。」
「はい。ご指導、ありがとうございます。」
ここから、様々な技術が生まれることになる。




