小康状態
6月も半ばを過ぎました。
もう一月くらい、ご主人様は眠ったままです。
時々意識が戻られますが、オイゲン先生のお注射が効いているので、朦朧としたままです。
私と大奥様は交代で病室に詰めて看病をしておりますが、ただお側にいるだけで、できることなど何もありません。
お話もできませんし、とても寂しいです。
今までも戦などでほぼ一年、お会いできないことはございましたが、あの時とは比べものにならないほどの不安と寂しさが募ります。
「ご主人様、今日は雨が降っております。この時期は多いですね。」
「これは睡蓮の花です。ギュンター様が領地から持ってきてくれたのですよ。」
「今日はファビアンの誕生日です。17になりましたよ。」
今、ご主人様が微笑まれたように見えましたね。良かったです。
どのくらい時間がたったのだろう。ずっと眠っていることは分かる。
感覚はもう、ほとんど無い・・・
時間も、痛みも、そして身体はぴくりとも動かない・・・
時々、意識が浮上する。覚醒に近いのだろうか。
でも、瞼が開かない・・・
最後の一踏ん張りが足りない・・・
でも、周りの音や話し声は聞こえる。これはローサだ。
彼女は本当に優しく、愛らしい。
「ローサさん、そろそろ代わりましょう。少し休んだ方が良いです。」
「ありがとうございます。大奥様。それでは教会に寄ってから、屋敷に戻ります。」
「あまり無理をなさらないように。エル君が悲しんでしまいますわ。」
「はい。ありがとうございます。」
「エル君、覚えていますか?初めて二人でお祭りに行ったときに、最後の花火の際に、その、しましたよね。とても嬉しかったです。また是非、二人で花火を見たいのです。できれば、お誘いしていただきたいなあと思います。ですからまだ、あちらに行かないで下さい・・・」
ああ、私はこの人たちを置いて去って行くのか・・・
私はいつまで・・・
そうか、7月9日。あの日だ、間違いない。
ジャスト49年か。良く出来てる・・・




