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リンツ伝  作者: レベル低下中
第七章 晩年編
1773/1781

小康状態

 6月も半ばを過ぎました。

 もう一月くらい、ご主人様は眠ったままです。

 時々意識が戻られますが、オイゲン先生のお注射が効いているので、朦朧としたままです。


 私と大奥様は交代で病室に詰めて看病をしておりますが、ただお側にいるだけで、できることなど何もありません。


 お話もできませんし、とても寂しいです。

 今までも戦などでほぼ一年、お会いできないことはございましたが、あの時とは比べものにならないほどの不安と寂しさが募ります。


「ご主人様、今日は雨が降っております。この時期は多いですね。」



「これは睡蓮の花です。ギュンター様が領地から持ってきてくれたのですよ。」



「今日はファビアンの誕生日です。17になりましたよ。」

 今、ご主人様が微笑まれたように見えましたね。良かったです。



 どのくらい時間がたったのだろう。ずっと眠っていることは分かる。

 感覚はもう、ほとんど無い・・・

 時間も、痛みも、そして身体はぴくりとも動かない・・・

 時々、意識が浮上する。覚醒に近いのだろうか。

 でも、瞼が開かない・・・

 最後の一踏ん張りが足りない・・・


 でも、周りの音や話し声は聞こえる。これはローサだ。

 彼女は本当に優しく、愛らしい。



「ローサさん、そろそろ代わりましょう。少し休んだ方が良いです。」

「ありがとうございます。大奥様。それでは教会に寄ってから、屋敷に戻ります。」

「あまり無理をなさらないように。エル君が悲しんでしまいますわ。」

「はい。ありがとうございます。」


「エル君、覚えていますか?初めて二人でお祭りに行ったときに、最後の花火の際に、その、しましたよね。とても嬉しかったです。また是非、二人で花火を見たいのです。できれば、お誘いしていただきたいなあと思います。ですからまだ、あちらに行かないで下さい・・・」


 ああ、私はこの人たちを置いて去って行くのか・・・

 私はいつまで・・・

 そうか、7月9日。あの日だ、間違いない。


 ジャスト49年か。良く出来てる・・・


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