陛下の気持ち
「しかし、不治の病と聞いたが、まことか?」
「はい、いつまで持つか、分かりません。」
「姉上は、ローサ夫人はどうする。二人を置いて行くわけにはいかんだろう。」
「陛下、何卒よろしくお願いします。」
「馬鹿な事を申すな。そちでなければ務まらんわ。全く、そちはいつも唐突だ。」
「今度ばかりは無理でございます。もうお迎えがすぐそこまで来ております。」
「まあ、その迎えが上にも下にも行かず、別の所に向かっても、今更驚きはせんがな。」
「お迎えの馬車を壊さないでくださいね。」
「できるならそうしてるさ。それにしても、そちがおらぬと困るぞ。また不遜の輩が蠢き出す。特にフランシスを巡ってな。」
「息子にはしっかり言っておきましたが、よろしくお願いします。」
「まああれは、そちと違って素直で好ましい人間だからな。だがなあ、せっかく余らの世代が国を引っ張る時代が来たと言うに、入口から即退場はあんまりではないか。」
「重ね重ね、申し訳ございません。意外に早かったです。」
「もう、皆に会えたのか?」
「フローレンス以外は。」
「聖女の娘か。まあ、あれはやむを得んな。世俗を捨てたら親の死に目には会えぬ。」
「ええ。それで、陛下はこちらに滞在されるので?」
「いや、すぐに帰らねばならぬ。そちの容態を確認に来たというのが実際のところだ。何せ帝国でも指折りの有力者がいなくなるのだ。あまり長く城を空けてはおれぬ。」
「それはご迷惑をお掛けしております。」
「全くだ。そちは基本的に余の迷惑にしかなっておらぬ・・・だがなあ、そちほど信用ができる者もおらぬし、何でも言える相手もおらぬ。だからそちには長生きして欲しかった。それだけは本心だ。」
「ありがたき幸せにございます。」
「それと、姉上を幸せにしてくれて礼を言う。これはそちにしかできぬことだし、そちの生涯最高の手柄だ。」
「私もそう思います。」
「余も、そなたに会えてよかったと思うぞ。一目会って話ができて良かった。では、余は帰るが、残り少ない時間、十分に楽しめ。」
「はい。このご恩、忘れません。」
「ベア、アウレリア、新学期に間に合うようには戻って来なさい。」
「はい、お父様。」
「ではさらばだエルハバード。いつかまた会おう!」
陛下はそう言って去って行った。
本当に城を離れられないのだろう。
しかし、やっぱりああいう人は格好いいよね・・・




