しなやかな人
最近は毎日、ローサとアーニャさんが交代で添い寝状態だ。
まあ、私自身、いつ容態が急変するかなんて分からないのだから、そうなるのだが、何だか申し訳ない。
そして、隣に今、彼女がいる。
「おはようございます。相変わらずお早いですね。お身体は痛くありませんか。」
「うん。時間通りに処方すれば大丈夫だよ。本当にゴメンね。」
「いいえ、私の方が心配で、エル君を一人になんてできませんから。」
彼女は私に身体を寄せてくる。互いに額を合わせる。
「随分お痩せになりましたが、それでも今日が迎えられて嬉しいです。」
「本当に済まないねえ。本来なら、結婚後50年が私の品質保証期間だったのに。」
「まあ、エル君がまた面白い話を始めました。そう言えば以前、プロなんとかのお話をされておりましたね。」
「ああ、私もこの世を去るに当たってのプログラムは作動中だよ。」
「とても寂しいことですが、エル君は全く取り乱しません。」
「そういうことなんだよ。アーニャさんやローサと別れるなんて、嫌に決まっているし、本来なら我慢できるはずが無い。でも、それを受け入れる強い力が働き、私は平静を保っている。」
「でも、私はそのプログラムが働いていません。」
「そうだね。だから別れはいつも悲劇だ。」
「でも私は必ず、その悲劇を乗り越えて思い出にして見せます。」
「さすがはアーニャさんだ。」
「もちろん、許されるなら、エル君とご一緒したいですけど。」
そんな短絡的なことを、彼女はしない。
私は彼女を抱き寄せ、頭を撫でる。
「嬉しいです。でも、私の頭を撫でる方は、エル君しか居ません。残りの人生、頭ナデナデ抜きの生活になってしまいます。」
「まあ、ローサとアルマさんはいるけど。」
「エル君のが無くなります。これは大きな違いです。」
「じゃあ、腕が上がらなくなるまでは、頑張らないとね。」
いつの間にかアーニャさんは泣いているらしい。顔を布団に埋めて見せないけど・・・
「ホント、ゴメン・・・」
それだけ言うのが精一杯だった。後は静かに頭を撫でるのみ。
すると、しばらくして落ち着いたのか、顔を上げる。すでに、いつもの優しい笑顔だ。
「元気、出ましたから。」
「じゃあ、今日も一日、思い出作りだ。」
何だろう、青春な感じ、出てるよね?




