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リンツ伝  作者: レベル低下中
第七章 晩年編
1755/1781

答えは出るか

 さて、自分の寿命が尽きるということが分かったが、実感はあまりない。


 あまりに突然だったこともあるが、そもそも私の存在自体が分からないからである。


 今となっては、遠い過去の話であり、所々思い出せなくなっている部分もあるが、私が今いるこの空間が、夢の中と考えるのが、一番合理的なのである。


 いつまで経っても目覚ましが鳴らないが、そのうち尿意をもよおして目が覚めるかもしれない。その状態が実は今でも一番しっくりくる考えである。

 だから、今から死ぬのだが、死ぬ実感はあまりない。

 そんなことをつらつら考え、かつて「答えが出ない」と放棄した思考を再起動してみる。


 まず、今のこの世界は何なのか。ある意味、私のご都合主義に忠実に作られたこの世界は、虚構というには、実に相応しい。

 都合良く中世ヨーロッパ風で、架空世界なのに、中途半端に中世基準に準拠しているし、非常に都合良く、人間的に欠陥の無い二人の女性がいてくれる。ある意味21世紀よりもいい世界である。

 だからこそ、疑わしいが、いくら何でも49年は長過ぎだろう。

 そして、その49年という時間的長さは確かに体験した。


 フランシスが生まれて、その子が来年15才を迎える。たしかにこの時間経過は存在した。

 夢の中では、時間の感覚が非常に曖昧になるので、49年の時間があったと錯覚している。

 そう考えるのが最も論理的なのだろうが、どう考えても一日はちゃんと24時間を必要としている。


 これは時計を見ているのだから間違いない。1秒間は私の肌感覚でもMM=60だ。

 やはり答えは出ない。


 では、私はここで死ねばどうなるのか。本当に死ぬのか、令和の時代に戻るのか。それも分からないが、最悪を想定するなら、本当の意味での死だ。

 じゃあ私は、あの日、眠りに就いたまま死んだ、のかも知れないが、死んだら夢なんて見ないだろう。

 もしかして、現実の私は死に至る昏睡状態か?


 ということで、強引に結論を導き出すとすれば、昏睡状態で見ている夢だ。

 目覚ましが聞こえないのも、尿意で起きないのも昏睡しているからで、通常より長い夢は、昏睡が半年なり1年続いている状態だからだ。

 ああ、科学に生きた者として、何とも恥ずかしい結論だ。

 それに、夢から覚めても昏睡状態だ。何だそりゃ・・・


 夢から覚めても、死んでいるか、昏睡状態というのが、状況認識としては妥当なところらしい。

 どちらにしても家族にはもう会えないのか・・・

 そして、こちらの家族とは永遠の別れだ。

 2つの人生、双方で百年近く生きたら、別れの悲しさは倍になったし、どちらの家族も中途半端な形でお別れとなってしまったことは、悔いが残る。


 しかし、これが私にとっての現実なら、時間を掛けて受け入れていく他ない。

 特に、私にとってこの世界は、単なる夢では片付けられない価値がある。

 私の死とともに、儚く消えてしまう世界なのかもしれないが、それでも、綺麗に終われたらいいな、なんて考えもよぎる。


 結局、答えは出ないが、どの結末でもお別れなのは同じ、ということは分かった。


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