患者からの宣告
先生方は、心なしか元気なく帰っていった。
私はこの病気に心当たりがある。
私の祖父は、私がまだ幼い頃に胃がんで他界している。
彼はまだ60を過ぎた程度であったが、昭和の終わりは、まだ癌から生還する人の方が珍しかった時代だ。そ
して、先生方もそれが分かっていて、言えなかったのだろう。
この時代に癌なんて病気が認識されていたかなんて分からないが、先生方は長年の経験で、同じ症例の患者に会ったことも、誰一人助からなかったことも知っているのだろう。
血便の有無なんて、的確過ぎる。
「フランシス、ローサと一緒に、薬湯を作ってきてくれないか。」
「分かりました。」
二人は退室する。
「みんなも、せっかくのパーティーを台無しにしてしまったね。エルフリーゼさん、料理を仕上げてみんなに振る舞って欲しい。捨てるなんてダメだよ。それと、ゲル、ギュンター殿。」
「はい・・・」
「酒は持って帰ってもらっていいから。」
「ご隠居様・・・」
「それと、少しだけ、私とアーニャさんの二人きりになりたい。」
家人は皆、静かに退室していった。
「さて、アーニャさん。一つ相談があるんだが。」
「はい。何なりと。」
「私はもう長くない。短ければ一月、長くても年内がいいところだろう。ローサに伝えた方がいいかなあ。それとも伏せてた方がいい?」
もう、さすがの彼女も目を大きく見開き、涙が抑えきれない。
しばらくの沈黙の後、彼女は口を開いた。
「伝えるべきだと思います。大切な方がある日突然いなくなるなんて、誰にも耐えられるものではありませんし、知っていればしてあげられた事もあったと、必ず後悔します。」
「そうだね。分かったよ。」
「でも、本当に治らないのですか?」
「ああ、これは恐らく癌という病気だ。今の医学では絶対に助からない。私も医者ではないから、病気を断定することはできないけど、恐らくは・・・」
ここで彼女は声を上げて泣いた。長い付き合いだが、さすがに初めてだ。
何か、とても申し訳ない気持ちになる。
「母上、どうなさったのですか?」
「ああ、ちょっとな。ローサ、フランシス、そこに座って。」
私はもう一度、同じことを伝えた。
とても長い時間、二人の妻は泣いていた。そっちの方が辛かった・・・




