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リンツ伝  作者: レベル低下中
第七章 晩年編
1753/1781

患者からの宣告

 先生方は、心なしか元気なく帰っていった。


 私はこの病気に心当たりがある。

 私の祖父は、私がまだ幼い頃に胃がんで他界している。

 彼はまだ60を過ぎた程度であったが、昭和の終わりは、まだ癌から生還する人の方が珍しかった時代だ。そ

 して、先生方もそれが分かっていて、言えなかったのだろう。


 この時代に癌なんて病気が認識されていたかなんて分からないが、先生方は長年の経験で、同じ症例の患者に会ったことも、誰一人助からなかったことも知っているのだろう。

 血便の有無なんて、的確過ぎる。


「フランシス、ローサと一緒に、薬湯を作ってきてくれないか。」

「分かりました。」

 二人は退室する。


「みんなも、せっかくのパーティーを台無しにしてしまったね。エルフリーゼさん、料理を仕上げてみんなに振る舞って欲しい。捨てるなんてダメだよ。それと、ゲル、ギュンター殿。」

「はい・・・」

「酒は持って帰ってもらっていいから。」

「ご隠居様・・・」

「それと、少しだけ、私とアーニャさんの二人きりになりたい。」

 家人は皆、静かに退室していった。



「さて、アーニャさん。一つ相談があるんだが。」

「はい。何なりと。」

「私はもう長くない。短ければ一月、長くても年内がいいところだろう。ローサに伝えた方がいいかなあ。それとも伏せてた方がいい?」

 もう、さすがの彼女も目を大きく見開き、涙が抑えきれない。


 しばらくの沈黙の後、彼女は口を開いた。


「伝えるべきだと思います。大切な方がある日突然いなくなるなんて、誰にも耐えられるものではありませんし、知っていればしてあげられた事もあったと、必ず後悔します。」

「そうだね。分かったよ。」

「でも、本当に治らないのですか?」

「ああ、これは恐らく癌という病気だ。今の医学では絶対に助からない。私も医者ではないから、病気を断定することはできないけど、恐らくは・・・」


 ここで彼女は声を上げて泣いた。長い付き合いだが、さすがに初めてだ。

 何か、とても申し訳ない気持ちになる。


「母上、どうなさったのですか?」

「ああ、ちょっとな。ローサ、フランシス、そこに座って。」

 私はもう一度、同じことを伝えた。


 とても長い時間、二人の妻は泣いていた。そっちの方が辛かった・・・


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