山を見る
今日は生まれて初めてオーガブルクに来た。林業視察のためである。
政庁の林業担当、現場監督とともに、山を登る。
「これは、思ったより広いですね。」
「ええ、これだけの苗を植えるのに、苦労しました。」
「苗は挿し木ですか。」
「一部実生(みしょう・種から育てた苗)もあります。トウヒの方がアカマツより成績が良いみたいです。」
「草刈りは実行しましたか。」
「今年は伐採したばかりで草が少なかったので来年からです。まあ、今年初めて植えたので、来年ここがどうなっているかは分かりませんが・・・しかし、山に畑とは、よく思いつきましたね。」
「まあ、果樹などは人が植え、育ててますから。」
「しかし、何故これほど間隔を密に植えたのですか。」
「理由はいろいろありますが、ある程度枯れることを想定していること、生産効率、樹木同士を生存競争させることで、枝を張らせずその生長を上に向けるよう、幹を上に真っ直ぐ伸ばすよう誘導し、利用しやすい木材を得るため。加えて植えた木以外にいろいろ生えてこないよう、ある程度、林の中を暗くしたいなど、色々考えた結果ですね。」
「いやあ、よく考えられたものですね。」
「その代わり、間伐といって抜き伐りをしてやらないと、森の健全さを保てませんけどね。」
「かんばつ?をしないと、具体的にどうなるのですか。」
「まず、木が横に成長しませんので、細長い木になります。風が吹くと折れやすいですし、私たちが目指す造船や建築用木材に必要な太さになかなかなってくれません。病気にも罹りやすくなりますし、森が暗すぎると下草が生えないので、土壌が雨で流れたり、土砂崩れの原因になります。」
「でも、下草は刈るのですよね。」
「植えた木が下草の背丈を超えるまでは刈ります。しかし、以後は共存させます。森の管理は明るさの管理と土づくりと心得て下さい。」
「なるほど。覚えておきます。しかし、手間がかかるものですね。」
「これは、畑と同じで生産効率を高めるために行うものですが、一つの種類の同じ樹齢の木しか生えていない森なんて不自然極まりないものです。人が不自然な状態を作った以上、最後まで人が手を加え続けないと、やがて淘汰されるか、土砂災害の元になります。」
「なるほど。自然の山なら放っておいても自然が何とかしますもんね。」
「では、伐採現場も見たいです。」
「ええ、すぐ隣で行っています。」
「なるほど、現地で丸太にするんですね。」
「ええ、この辺りの伝統ですね。あれを川まで運んで、ハガ-まで流送します。」
「ああ、水道施設のすぐ上流に、岸に引き上げる場所がありましたね。」
「あれは紙の原料ですね。」
「我々としては、あっちの方が運ぶのに難儀します。」
「向こうに集積してますね。」
「ええ、ある程度まとめて、人力で運ばざるを得ません。大変な重労働ですよ。」
「馬を使いたいですね。」
「ええ、途中までは馬が通れる道があるのですが、ここまではなかなか。しかし、これが紙になるなんて未だに信じられない。」
「皆さんのご苦労に報いるくらいの品質ですよ。」
「我々も使えるようになればいいですね。」
「必ずなりますよ。それと、価格の動向はいかがですか?」
「ええ、種類や用途を問わず、かなり、いや高騰していると言って良いでしょう。建築造船用、家具木工、薪・製紙用、いずれも1年で倍近い値になっています。もう、注文をせかされて大変です。」
こちらもなかなか好調のようだ。




